第31話
「おはよサルサぁ、あれぇ?まだ真っ暗だよ……ってその目どうしたの?!」
まだ朝というにはあまりにも昏いこの時間。サルサは目を腫らしたままひたすら僕の頭を撫で続けていた。
「どうしたの?怖い夢でも見た?」
「……あぁ、本当に……本当に怖くて…………どうにかなりそうな夢だった。」
そう言うとサルサは僕の首の後ろに手を回す。
そして僕にキスをした。
僕はびっくりして固まってしまった。
そんな僕を見てサルサはクスッと笑う。
そしてまた僕を抱きしめる。
「あと少しだけこうさせてくれ。」
サルサは震えているようだった。
僕は黙ってサルサを抱き返す。
「シオは………温かいなぁ……」
「本当に今日はどうしたのさ。別にいいけど。」
僕の肩に顔を埋める彼女の頭をポンポンと軽く叩く。
猫の獣人である彼女の髪はとても細くて柔らかい。
彼女は僕より一回り大きい。もちろん僕が小さいというのもあるが。
本当に大きな猫を抱きかかえているようだ。
「シオ。」
「なぁに?」
「呼んだだけ。」
「そっか。」
「シオの声は落ち着く。すごく好きだ。」
「……………!?」
今日のサルサは少し変だ。こんなに甘えん坊なサルサは見たことがない。僕の調子が少し狂う。
「んー、シオの鼓動……心音は心地良いな……。」
「そんな一心に聞かれたら僕の心臓止まっちゃうよ?」
冗談めかすように笑う僕。すると彼女はふわっと笑い、僕に馬乗りになって再び唇を重ねてきた。口の中を貪るような激しめなものでは無く優しく慈しむような感じのキスだった。
彼女は僕の胸に手を当てながら
「こんなに主張しておいて?」
と言って優しく笑った。……やっぱり今日の彼女はどこかおかしい。覚醒しきっていない僕の頭は依然として困惑状態である。
「シオのそんな
パチ!っという音が部屋に響く。
―――――――やってしまった……
僕は無意識に伸ばされた手を払ってしまった。
「ゴメン!!ちょっとビックリして……
サルサの手が嫌とかじゃなくて!……本当にごめんなンゥ??」
気付くと再び僕の唇は彼女に奪われている。
「大丈夫、アタシに全部委ねて。」
やっぱり今日の彼女は何かおかしい。
「ん……涙。」
僕はもう何が何だか分からず、舐められた頬の感触を確かめることすらできない。
「アタシがシオに酷いことすると思うか?」
彼女の真っ直ぐなエメラルドブルーの瞳に見つめられ、僕は必死で首を横に振る。
「なら大丈夫。シオはアタシに身も心も委ねて気持ち良くなればいいんだ。」
馬鹿な僕でもこれから何が起きるのかくらい分かる。
だが忌々しい僕の
「ごめん………僕…昔…色々あって…………そういうこと…できないかも…」
「知ってる。」
「え?………」
「それにほら、大丈夫みたいだぞ?」
そう言うとサルサは僕の下腹部を指でなぞり始めた。
僕はもう考えるのをやめ、このピリピリとした快楽に身を任せることにした。
「辛いことも悲しいことも、もう全部忘れちまいな。全部全部、アタシが上書きしてやる。二度と思い出せないくらい……」
サルサは僕の服を脱がせると自分も裸になる。そしてまた唇を重ねてきた。今度はさっきより激しくて深いキスだ。お互いの唾液を交換し合うような長い長いキス。その間もずっと彼女の手は僕の体を這い回る。
やがて満足したのか口を離すと糸を引いた唾液がプツンと切れて落ちた。
まるで僕達の理性のように。
「可愛い、可愛いよシオ。」
胸やお腹にキスをされてもくすぐったいくらいにしか感じなかったが、次第に体が火照っていくのが分かった。
それはとても不思議な感覚だった。今まで感じたことのない快楽への入口が口を開けているような、未知に対して不安があるけども期待してしまう。こんな複雑な心境は初めてかもしれない。
快楽と恥ずかしさで思わず僕は腕で顔を覆ってしまう。
「顔隠さないで。」
そう言って僕の腕をどける。
「恥ずかしいよ……」
「大丈夫、アタシしか見てない。」
「でも……やっぱり恥ずかしい……」
そう言うと彼女は僕の手を取り、自分の胸へ導いた。
「ほら。アタシの心臓の音分かる?」
確かにドクンドクンという音が手に伝わってくる。
「頭貸して?」
僕はされるがままにサルサの胸に耳を当てた。
「どう?」
「すごくドキドキしてる。」
「だろ?アタシだって恥ずかしいんだ。」
僕の心臓は彼女につられるように更に早鐘を打っていた。
サルサは僕の頭を優しく撫でる。
そして耳元で囁く。
「……シオ、愛してる。」
「僕も……サルサのこと大好きだよ……」
「知ってる。」
そう言うとサルサは再び僕にキスをした。
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