第16話 そういう性格なんだから仕方がない

 今日は少し早く仕事が終わったためブラブラと繁華街を歩いていると獣人と小さな見覚えのある子が手を繋いで歩いているのを見かけた。


 すぅぅぅぅぅ………


 微笑ましさと嫉妬という相反する感情で頭がどうにかなりそうだわ。


 私の中では今天使と悪魔がしのぎを削っている。


『あの2人を微笑ましく見守る』

 VS

『あの2人の間に全身全霊でダイブする』


 え?今頭に手を乗せた?えぇぇぇぇ!?

 いいのそんなことやって?!

 私頭に手を乗せた瞬間弾かれたのよ???

 あんな風に髪くしゃくしゃにしていいの!?

 はぁ!?羨ましいんですけど!???


 私は気付いたら2人に声を掛けていた。

 名乗った瞬間サルサちゃんからとんでもない威嚇を頂いたがシオくんの困惑顔が見れたから良しとしよう。


 私たちはこの辺りで1番まともな酒場『アセスタ』に来ている。

 ここはご飯も美味しいしお酒の種類も多い。だが店主が気難しいというか単なるエロジジイだから気に入らない客は追い返される。


「野郎に飯作って何が楽しいんだよ。」


『アセスタ』はどこかの言語でハーレムを指すらしくこのジジイの趣味が伺える。

 実は優秀な鍛冶師だったがヘンテコなモノしか作らず工房を追い出されたらしい。


 __________


「初めましてヴェーラです。シオくんとは仕事でさせて頂いております。」


「サルサだ。シオのだ。てめぇか、いつものシオに獣人の契ティアムトやってんのは?アタシへの当てつけか?おい。」


 うん?今なんて言った?ティアムト?なにそれ。


 …………ヴェーラさんが見た事ない表情をしている。

 動揺して目が泳いでても美人は美人なんだな。


「ねぇサルサ、てぃあむとって何?」


「ん?あぁ獣人間での親愛の証拠っつーか、約束っつーか、まぁそんなとこだ。男が相手の女に自分の髪の毛を括るんだ。指だったり腕だったり…その髪が切れる前にもう一度会いに来るってな。」


「シオ、お前いつもこのヴェーラアバズレとの約束の後は必ず後頭部辺りに色の違う髪が結んであったんだぞ。獣人の髪は束ねないと簡単に取れちまうが人間のなら簡単に結べるからな。バレねぇとでも思ったんだろ。」


 嘘やろ僕鈍すぎでしょ。え?そんなに気付かないもん?


「え………ヴェーラさんそれ本当ですか?本当だとしたら……その…結構ドン引きなんですけど。今後の付き合いを考えるくらいには。」


「いやぁ――――その……」


 そして言葉に詰まるヴェーラさん。


「そもそもねぇ?!シオくんが悪いんだからね?!私の趣味知ってるんでしょ?それなのに毎回毎回距離は近いしお触りオッケーだし。それに加えてなんなの?その緩い服は?今冬でしょ?雪降ってるわよね?そんなショタコンホイホイみたいな子がいたらついて行く決まってるでしょ!」


 まさかの逆ギレ。


 今の今までヴェーラさんを責める流れだったはずなのに2人のジトーッとした目線が僕を突き刺す。


 あ、やめて。サルサもそんな目で見ないで。傷付くよマジで。


「なぁシオ。何でお前が引っ掛けてくる客はいつもそうなんだ。そろそろサルサに叱ってもらえ?」

 と店主のシュテンの追い討ちが僕を襲う。


「なぁシオ?アタシにちゃんと説明して?お触りオッケーって何?引っ掛けてくる客って何?」

 と僕の肩を持ち凄い剣幕寄ってくる。


「えっと………教えて貰ってる側だから…その……別にいいかなって…減るもんじゃないし………それと…治した女の冒険者からご飯誘われて……執拗に勧誘されることが多くて……………色々と……」


「ほーらシオくんが悪「アンタは黙って!!!」」


「後半はギリ許すとして………で?どこ触られたの?」


「………覚えてない……」


「はァァ?アンタさぁ、前も言ったよな?あれほど自分を大切にしろって。この前もダンジョンで勝手にアタシの前に出やがって。アンタに庇われるほど弱くねぇんだよ!!」


 なぜだか急に僕への説教が始まった。え?なんでなんで?確かにそれは僕が悪いかもしれないけど………


 というかこの匂い―――


 ハッとあることに気付きシュテンの旦那の方に顔を向けると……


「お、やっと気付いたか。」


「そういえばなぁ、こいつぁ独り言なんだが。」


「シャノも言ってたなぁ、その胸糞悪い特攻は止めろって。」


 こいつやりやがった。


 ___________


 そこからと言うもの説教大会が始まった。


 僕は干物とよく分からない穀物の炒め物に舌鼓を打ちながら怒号に晒されてる。


 議題は僕の普段の自棄の姿勢について。

 言われてみれば思い当たる節がない訳では無いが……


「しょうがないじゃん………もうこれは癖なんだし……それに僕が怪我したって綺麗に治るんだからいいじゃん。」


 シュテンの旦那は頭を抱えサルサとヴェーラは顔が真っ赤になった。


 どうやら火に油を注いだらしい。


 ついにシュテンの旦那が口を出した

「あのなぁ?シオ。みんなお前さんのことが心配なんだよ。分かるか?」


「ッたく、その表情カオは分かってねぇな…ハァ…………どうしたもんかねぇ。」


「なぁ分かるか?俺がお前さんのナイフを見た時の気持ちが。持ち手側からの血飛沫ばかりのナイフを見た気持ちを。」


「……………」


「……とどのつまりお前さんは周りを信用してないってことになる。」


「!?そんなことな「いいやそうだ。」」


「ならなぜサルサを庇った?」


「それは……………」


「いいか?お前さんが庇える程度の攻撃をサルサが躱せないと思うか?シャノがお前の力量を見誤るか?そういう話をしてるんだ。

 お前さんが周りが傷付くのを見たくないのは分かる。だがそれ以上に周りはその姿勢にイラついてるんだ。なーにが自分が傷付けばいい、だ。自惚れるのも大概にしろってんだ。」


 コツコツと革靴の音が店に響く。

 一つ一つの言葉がまるで返しの付いた針のように僕の心にグサグサと刺さる 。


「なぁシオ、顔を上げろ。」


 そう言われ顔を上げた瞬間、気付いたら店の中を転がっていた。


 顔と全身の痛みのが殴られたことを教えてくれる。


「その顔の傷、治癒術で治したら今後一切うちの店の扉はくぐらせねぇ。別に今全部分かれって訳でもねぇんだ。ちょっとずつ分かればいい。」


「分かったか?」


 僕は黙って首を縦に振った。

 するとシュテンの旦那はニカッっと笑って頭を撫でてくれた。


「よし!じゃあ飯食おうぜ!」

 。

 みんなが食べ終わる頃にはすっかり日が落ちていた。


 僕の名はシオ。


 明日をも知れぬ闇医者さ。


 ________


「あとなヴェーラ、寝取りは趣味じゃねぇんだ。お前、しばらく出禁な。」

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