勇者編
第15話 勇者の登場
__シュウジは知らない、この世界の残酷さ。
それは旅人、冒険者の数を表す数字と、殉職者の数を表す数字が酷似していることから分かるだろう。
魔王上に近づけば近づくほど、その傾向は強くなっていく。
依然魔王軍と人間の争いは人間が劣勢。
時々現れる理不尽な強さの魔物や魔獣に襲われ、命を落とす、何てことも少なくない。彼らもまた__。
「なんでこのレベルの魔物がこんなところにいるのよ!?」
「知らねえよ。撤退しかねえ。俺らじゃ勝てるわけがない」
四人のパーティー。
別に魔王城攻略などは目指してなく、気ままにダンジョンから宝や高価なものを採取していた彼らだったが、規格外の魔物に出会い逃走中。
戦闘経験もそれなりに積んできた彼らだから分かるのだろう。
あれには勝てないと。
「はやいはやい。どうすればいいんだよ!?」
「ねえ待って……」
背後からの脅威。
猛追してくる魔物を振り切れないと嘆いていると、最年少の少女が震えた声で前の脅威を伝える。
後ろから追ってくるものと同じ種類の魔物が四体。
一体でも勝てない奴が合計で五体。囲まれて絶体絶命。四人は背中合わせで、震えながら自分たちの結末を待つことしかできない。
「……終わった」
四人の総意がふと誰かの口からこぼれる。
もう一度言おう。
依然劣勢は変わらない。しかし勝ち目がないといったら、それは嘘になる。
それは、その男がいるから。
魔物たちに遮られた視界が、不意に晴れた。
気付くと彼らを絶望の淵に追い込んでいた魔物の首はなくなっていた。
閃光のごとき早業。
その切り口をみればそれを為した人物がどれほどの技術を持っているかが伺える。
「よかった……間に合って。君たちもよく耐えてくれた」
そしてその本人は、彼らの無事を祝うと、それまでの過程を褒めだした。
銀色の短い髪と整った顔が特徴的な人物。
少し吊り上がった目とモデル体型の全体図。力強い立ち姿と安心感のある背中が守ってくれそうな印象を与えくれる。
まあ簡単にいうとイケメン。それだけだ。
そんなイケメンは泣きそうになりながら、尊い命が散っていない現状を祝う。
「ぼくはぼくが守れる範囲の人間しか守れない。だからよかったよ……本当に」
「あなたは……」
「アベラルド・ヴァンポリス。巷では勇者と言われている。またどこかで会えたなら」
今、もっとも信頼できる名乗りを上げた。
***
「ルィーズってさ……どんくらい強いの?」
「ああ。確かに。それ気になるかも」
「どうしたんですか? 急に」
居間で四人、ダラダラと過ごしているとき、俺はふと浮かんだ疑問を口に出す。
それにはアサエルも興味を示したようだ。
ソファアで寝ていた彼女だが、起きあがり俺の話に乗っかる。
「いや。ルィーズの底が知れな過ぎて」
「まあ間違いなく魔導士の中ではトップだろうな」
そんな問いに答えたのはナタリアだ。
彼女が強く言い切っているのはそれが紛れもない事実だからだろう。
まあ、この規模の森を包めるほどの魔力を持っている人間がそこまで多くいたら、それこそ困る。
「なんならルィーズより強い可能性がある人間なんて、二人しかいないだろ」
「可能性、っていうかあの二人には勝てませんよ」
「まあ確かに」
「その二人って?」
二人の中ではもう答えは決まっているらしい。
人間の中で三番目に強い。ということだ。
自分の隣にそんな少女がいるとは簡単に信じられるものではないが、一番強いと言われても信じられる程度には彼女の底は知れない。
「私と勇者と剣聖で、三英傑って言われてるんですよ。その二人です。勝てないのは」
「ちなみにルィーズは賢者だ。その呼び方だと」
またまた強そうな役職二つが出てくる。
剣聖はナタリアの兄貴。勇者はまだ分からないが、ルィーズよりも強いと言われて納得できるものたちということが肩書で分かる。
というかそれらと並んで名前が挙がるくらいには彼女は強い、ということらしい。
「まあ、勇者は強いですよ。私含めなかったら魔法の扱いはトップになると思いますし。剣術もナタリア並みだと思います」
「戦ったことあるの?」
「まあ模擬戦は結構してましたね。私も、昔は勇者パーティーにいましたから」
「へ? そうなの?」
「はい」
ここで新情報。
実はこの物語は追放ものだったのかもしれない。役立たずというレッテルを貼られ、縁の下の力持ちである存在が解雇され、その瞬間にパーティーが崩壊していくというあれ。
と、一瞬は思ったのだが勇者を口にした時の口ぶり的にそれはない気がする。そもそも勇者は彼女より強いらしいし、ルィーズを無能と思える人間などこの世に存在する気がしない。
「じゃあ、なんでやめたの?」
「いや……勇者が陽キャ過ぎて。いろいろな人をパーティーに引き込んでいくうちに、知り合いの知り合いが増えていって……気まずすぎてやめました」
「あ、はい」
勇者パーティーなどみんな憧れる場所ではないのか。
そんなところ自分から去るなんて、どんな理由があったのか。という問いに彼女らしすぎる解答。
しかもなぜか心当たりのある体験に、こっちまで気まずくなる。
思えば俺も高校入学時、隣の席のイケメン陽キャと仲良くなったっけ。高校生活余裕って、その時は油断したもんだ。
しかしいつの間にかそいつは友達を増やしていき、しゃべれない奴がグループに一人でもいれば静かに なってしまう俺を置いてどんどん仲間を増やしていった。そんな苦い青春の記憶が、そのエピソードから思い出されてしまった。
そういえばネットで言われたっけ。
俺はゲームで例えるなら、最初の草むらで手に入る雑魚だと。強い仲間が手に入れば問答無用で捨てられる。そんな存在。
無論ルィーズがそんな雑魚とは天地がひっくり返ってもない。最後までプレイしても出てこないような最強キャラなのは間違いないが、コミュニケーション能力という一点のみを見れば彼女は雑魚だ。そういう意味で、実に共感できる話だった。
「あ。すいません。ちょっと行ってきますね」
「ああ。いってらっしゃい」
そんなことを考えているとふいにルィーズは立ち上がった。
森で何か見つけたのか、たまにこういうことはあるから、誰も気に留めない。
「まあ結局、底なんて見えなかったな」
「ルィーズの底を見ようなんて無理だと思うぞ? 私と戦ったときですら本気はだしてないし。それに一対一想定で話していたが数の多い相手の制圧力なら彼女に勝るものなど一人もいない。兄者でも」
「まあいいんじゃない? なんか眠くなってきたわ」
それもそうだ。
俺みたいな小物に彼女を計ることなど不可能だ。
ならば別に気にせず、この天使みたいに寝てればいいのかもしれない。
そうして時間が過ぎ、ひとまず外に出ていたルィーズが帰って来る。
「あ。すいません。噂をすれば、ってやつです」
「ずいぶん賑やかになったんだね。君の屋敷も」
帰ってきたルィーズ。
しかしその隣には見たこともないようなイケメンが立っていた。
うん。
そして俺の脳は破壊された。
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