第14話 聖騎士の加入

「あああ。気持ち悪い」




「吐かないでくださいよ。普通に汚いので」




「なんで冷たいの……」




 ルィーズの膝枕。


 待ち望んだシチュエーションなのに、気分は最悪だ。




 あれほどまで振り回されたあとだと三半規管も限界。


 車酔いなどは経験したことがあるが、これはその次元をはるかに超える。とにかく気持ち悪い。目の前の緑色の光は眩しいし。




 そんな俺の顔の前が緑に光っているのは、ルィーズの治癒魔法が働いているから。


 一応これでも、彼女の治癒によりだいぶマシになっている方なのである。




「シュウジ、水持ってきたよ……ってプっ。顔青すぎでしょ。おもろ」




「誰のせいだと……」




「動かないでください。せっかく治癒してるんだから」




 心配そうに水を持ってきた元凶は俺の顔の青さに耐えられずに吹き出す。


 自分の罪を認め、心配していたのに俺のこの惨劇をみて吹き出す、本当に性根が腐っているのだろう。


そんな彼女にツッコミを入れようと頭を持ち上げた瞬間、治療ができないと自分の膝に一度離れた頭を押し付ける。




 そんな風に膝枕を強要されて、嬉しいはずなのに。なのに……。楽しめているなんて口が裂けても言えない。


 通過口が裂けたらその裂け目から吐瀉物が漏れ出そうで怖い。




「ちょっと起き上がっていいですよ。ハイ水のんで」




「ああ。おいしい。ていうか……ルィーズなら、酔いなんてすぐ治せないの?」




 水を飲みながらルィーズに浮かんだ疑問をぶつける。


 治療してもらっている身、おこがましいのは承知だが、便利すぎる彼女の魔法が酔いを醒ませないなんてあるのだろうか。


 


「いいですか? 治癒魔法は相手に魔力を流し込む行為です。流し込みすぎると、パンクします。だから慎重にしなければならないのですよ。とくに魔力総量が著しく低いシュウジの場合は」




「俺って魔力ないのね……」




 説明の途中で刺される。


 アサエルとは違い悪意がない分、傷つき方は大きい。まあ察してことではあるけど。これほどの魔法の達人にはっきり言われるとさすがに萎える。




 異世界来たんだから魔法くらい使わせてくれよ……。


 なんで唯一の特殊能力が剣になれることなんだよ。




「少ないだけで使えますよ。今度教えてあげましょうか?」




「ええ。それはうれしい」




 そうやって落胆している俺の心情を読み取ったのか、ルィーズは慌ててフォロー。


 正直魔法使えることよりもルィーズに教えてもらえることの方がうれしい。




「なるほどなあ。それにしてもまさか、世界最高クラスの剣になれる人間がいるなんて」




「俺も驚きだよ」




「私は、君が欲しい」




「うわあ。全然ロマンチックじゃねえ」




 美少女からプロポーズらしき言葉を貰ったのは今が初めてだが、それで得られる感情が恐怖しかないとは意外である。


 だってこれほどまで気持ち悪くなっている元凶の二人目として挙げられるのだから。というか実行犯は彼女だ。




 もっと胸キュンしたかったなあ。そのセリフで。




「で? どうだ。さっきの話だが」




「ええ。別にいいですよ」




「え? 本当に言ってるの?」




 さっきの話とは、ナタリアがここに住むというもの。


 なぜそんな話になったかというと、まあ俺目当てが七割だ。なんかそういうと自惚れ人間という印象を持たれてしま士王だが、事実だ。彼女の武器マニアとしての顔がその結論に至らせた。そして残りの三割は__。




「ルィーズ。いつでも君レベルの魔法使いと戦えるのは嬉しいぞ」




 彼女が持つ戦闘狂の顔。


 確かに、彼女レベルならば台頭に戦える人間など探すことが困難なことは明らかだ。そういう意味でルィーズは立派な好敵手になりうるだろう。




「という訳でシュウジ、今日から三半規管を鍛えてやる」




「うわぁあ~~。ヤダあ」




「君は世界で一番の才能を持っているのに、それをドブに捨てるのか?」




 嫌なのに、そんなこと言われたら断れるわけがない。


 というかその才能が世界最強の剣になれる、とかいうふざけたものなんて、本当にどうかと思うのだが。




「大丈夫だ。今回みたいにいきなり振り回したりはしない」




「なら安心……できる相手じゃないんだよなあ」




 ナタリアの方を見てぼやく。


 彼女が常人の秤で無茶という言葉を使えるのだろうか? 彼女の無茶と自分の無茶、だいぶ違う気もする。




「でもさ。ナタリアは大丈夫なのか? ナタリアの事情もあるだろ」




「別に、私は最前線をソロで戦ってきたから大丈夫だと思うぞ。ここに戦力が集中する分には構わないからな」




「そうなのか?」




 まだ抗おうと聞いてみるも、返ってきた答えは意外なものだった。


 別に戦力分散、集中の意図をもって聞い立つもりはないのだが、引っ掛かる返答が。  


 


 こんなどうでもいい場所に彼女ら、 ルィーズとナタリアがいるのは損失ではないのか。




「ここがどういう役割をしているか、知らないのか?」




「そういえば説明してませんでしたね」




 そんな分かってなさそうな俺に、ルィーズは説明していなかったことへの反省を、ナタリアはしらないことへの驚きを見せた。




 まあ住んでて知らないのはさすがに問題か。




「ここは魔王軍が攻めてきたときの砦。王都を守る最重要防衛機関です」




「森の向こうはもう魔王軍の領土だからな。おそらくルィーズがいなければ王都など簡単に落ちているだろう」




「本当に重要じゃん!?」




「はい。そこに間違いはないと思いますが、まあ一応王様にも報告はした方がいいと思います」




「む。分かっている。だがこれで分かっただろう。防衛はどれほど強化しても構わない」




「ヘエ~」




「君も知らないのか……」 




 その説明に初見の反応をしたアサエルに、ナタリアは呆れたように額の部分を抑え首をふる。




「どうです? 治りました?」




「え? あ、うん。そういえば」




「よし!! では特訓をはじめようか!!」




「今日は勘弁してくれ!!」


 




 気持ち悪さもなくなり、元気を取り戻した俺に嬉しそうに鬼畜なことをいうナタリア。


  


 やはり彼女は常人の秤を持っていないようだ。




 まあなんにせよ、ナタリアが加わったところで意図せず最強のパーティーが出来上がってしまった。


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