第13話 大魔導士VS聖騎士
「アサエルは上に避難しておいてください」
「どこまで飛べばいいの?」
「なるべく高く。アサエルが安全と思えるところまで」
「分かったわ」
「アサエルの動きが、止まったら……始めましょう?」
「よし。分かった」
上昇するアサエルを見守りながら、二人はそれを始まりの合図にすることを約束する。
そしてアサエルが見えなくなるほど小さくなったとき__。
「いくぞ!!」
初動はナタリアから。
神速でルィーズに近づくと、芸術的なまでに洗練された剣の軌道でルィーズを容赦なく切り裂く。
真っ二つに割れたルィーズ。その亡骸が急激に光出し、派手に爆発した。
無論だがその初撃で殺せたとは思っていない。
その爆発を寸分で回避すると、爆発により生じた煙幕の中、ルィーズを探す。
と、そうやってきょろきょろと辺りを見渡しているナタリアのもとに水の大群が。
圧倒的質量がナタリアを襲い、流す。常人ならばまず助からないであろう激流が彼女を襲った。洗濯機のように荒れ狂う水が回転している。
しかしその激流を余裕そうに泳ぎ切ると、水面に浮上。そして彼女が見た光景は。
「おお」
凄まじい勢いで燃え盛る炎の地獄だ。
数秒いただけで死が確定する、息を吸っただけで喉がただれ、火傷に苦しむ、そんな地獄に、ナタリアは感嘆の声を挙げる。
下は大洪水、上は大火事。これな~んだ、という最近見なくなったなぞなぞを思い出せる光景。
答えはお風呂。昔のお風呂は上が熱く、下が冷たいために納得感の高かったこのなぞなぞだが、現代日本では技術が進み、一律に温度が保ててしまう。そのために納得感が薄れ、消えていったこのなぞなぞだが、また新しい答えを引っ提げて復活するかもしれない。
答えはルィーズの魔法。
下は入っているだけで臓器や脳が撹乱され、壊れてしまうほど強い流れの大洪水。上は心頭滅却しても涼しくならない、人を炙るための火。
ちなみに先程ナタリアが感嘆の声をあげた理由だが__。
「なんてカッコいい光景だ。水と火。相反する二つが共存しているなんて」
その地獄を脅威とも感じず、目を輝かせ楽しんでいる。
彼女もまた人知を越えた化け物の一人。この程度ではむしろ喜んでしまうようだ。
「氷雪魔法」「爆炎魔法」「雷撃魔法」
そしてそんな地獄のなかで響き渡るルィーズの鈴の音のような声。
地獄の中の唯一の安らぎにも聞こえるが、実際のところは地獄を更なる大地獄へと変える閻魔の言葉だ。
どんどんと属性の違う一級品の上級魔法が重ねがけされていく。
どんな生物も存在が許されない環境。
しかしその環境下をナタリアは剣一本で生存し続ける。
彼女は高笑いをしながら、剣を振り回して喜んでいた。
「なんてすさまじい魔法!! ルィーズ!! 君は最高だぞ」
重ねがけされればされるほど喜ぶ戦闘狂。
この地獄を作ったルィーズを賞賛し、大喜びでそれらに立ち向かう。
「……」
そんな地獄の中、ナタリアの背後から至近距離に杖が現れる。
環境をいくら過酷にしても彼女を追い詰めるなど不可能。そんなことルィーズも分かっていた。
故に環境を変えたのは目眩ましのため。至近距離で、絶対的な魔法を当てるため。
「破滅魔法。死神の鳴動」
完全詠唱。
魔法の強さは詠唱の有無で大きく変わる。
その工程を挟まなかった場合、もしくは省略した場合、魔法と言えるかも分からないような低次元なものになることがほとんどだ。
ルィーズもそれは同じ。
今まで作った地獄は全て、詠唱を省略した形だ。
低次元に仕上げられた、というには余りにも強すぎるが、ルィーズにとっては低次元。そして今、彼女に至近距離で、最高クラスの魔法をぶつける。
「ッ? ッつク」
破滅魔法。
その名の通り壊すことに特化した魔法。
杖の先端から黒い高密度の光線が、ナタリア目掛けて放たれる。
さすがのナタリアも焦ったように喉の奥を鳴らすと、剣を向け防御態勢へ。
しかしその威力は凄まじく、ナタリアを容赦なく飲み込む。
常人ならば骨も残らないような一撃。それを彼女に放ったのは、ある意味の信頼だ。
これでは死なないという信頼。しかし大ダメージを与えるその攻撃。確実にシュウジを守りきれたと思ったのだが__。
「やはり凄まじい魔法だ。そして凄まじい剣だ」
「へ?」
黒い光線が生んだ爆風が晴れるとき、そこに立っていたのは無傷のナタリアだ。
ナタリアは凶悪な笑みを浮かべると、ルィーズの攻撃、そして今自信がもっている剣を褒め称えた。
さすがに予想外の結果にルィーズも動揺を隠せない。
「……まあ、いいですよ。続けましょうか」
「当たり前だ!!」
そしてこの戦いがまだまだ続くことを宣言。
今度は二人が向かい合い、攻撃を交わそうとしたその瞬間__。
「もう……無理。オロロロロロ」
戦場のど真ん中で、嘔吐しはじめた剣、もとい少年シュウジによってこの戦いは中断になった。
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