第8話 大天使の謀略
「へえ。こんな感じなんだ。すげえ!!」
中世ヨーロッパ的な街並み。
床にはレンガが敷き詰められており、建っている家々は絵本に出てくるようなメルヘンなものが並んでいる。
徘徊している人々もまた、現世にはいなかった種族ばかり。
獣人、エルフ、魚人などなど異形種に加え、甲冑をかぶっている衛兵やマントを翻している冒険者など、一目で異世界と分かるような恰好をしている者たちで溢れかえっている。
そんな癖の強い人々で溢れていると、現代日本の普通は異常のようだ。
日本ではクラス全員分の誕生日を祝いプレゼントを贈っていた担任に誕生日を忘れられてしまうほど影の薄い俺だが、ここでは浮いてしまうほどに目立っている。
この世界では黒髪も立派な強個性なのだろう。
「何やってるの? 早くいくわよ?」
そんな景色に見惚れていると、アサエルが用事を終わらせようと急かす。
彼女の言うことは正しいが、さすがに許してほしい。
せっかく異世界に来たのに、異世界らしさなんて全く感じることができていなかったのだから。
「そういえば、お前も天使なんだな」
「何よ? 急に」
周りがざわついている理由が自分以外にアサエルも入っていそうなことに、そういえばと事実を思い出す。
日本人と天使。
どちらも彼らにとっては珍しいものなのだろう。こっちからしたら、全てが真新しいものなのだが。
「あ。いいこと思いついた」
「ん?」
そんな時、ルンルンと楽しそうにアサエルはナビゲーションボールとは違う方向に歩き出した。
何か思いついた上機嫌な彼女に、とりあえずついていくことにする。
「どうしたんだ? ナビゲーションボールに従わないのか?」
「いいからいいから。今から面白いことしてあげる」
どんどん人目の付かない路地裏に入っていく。
こんなところで何をしたいのか。そう思っていた時にアサエルは嬉しそうに金貨が入っている袋を取り出した。
「見ててね?」
そして、嬉しそうに彼女はその袋を振り出した。
じゃらじゃらと音がなり、人気のいないその場所に響き渡る。何が起こるのか、正直よくわからないのだが__。
「おいおい。金の音がすると思ったら、可愛い奴もいるじゃねえか」
「へ? へ?」
彼女の奇行に困惑していると、出てきたのはチンピラたち。
金貨が擦れる音を聞きつけてやってきたようだ。
考える間もなく、チンピラたちは俺たちを囲む。
「おいおい。上玉じゃねえか!!」
「こんなんところに彼女さん連れてきて、大丈夫なの?」
にやにやしながら、どんどんチンピラたちが集まって来る。
なんでこんなことになっているのか。こいつのことをアサエルのことを彼女と言っている奴も出てきて不服だが、問題はそこじゃない。
彼女は何をするつもりなのか。
「おい!! 金貨だぜ? 奪え奪え!!」
アサエルの持っている袋からチラ見えした金貨。
それを見るなり、彼らは目の色を変えてアサエルの方に向く。
当たり前だが、あれを奪われるわけにはいかない。どうにかしなければ……とそう思っていた時。
「ちょっと痛い目見なさい。買い物は済ませておくから、ここで待っててね」
アサエルはいたずらっぽい笑みを浮かべなら羽を広げ、空へと羽ばたいた。
ここにいる者彼女以外みな人間。
飛べない俺たちは彼女を見つめることしかできない。
「へ? いやがらせってこと?」
「そうだよお~」
満足そうに、アサエルは俺の予想を肯定する。
なんて奴だ。
カス度を毎回更新してくるのはもはや尊敬の域だ。
「あ~。あとこれ」
「あ!! 俺の財布」
「俺のも!?」
「いつの間に」
さらにはこいつらの数人から財布を掏り、それを自慢げに見せびらかす。
もう駄目だ。
本当に天使なのか? その疑いが臨界点に達してしまう。
「そして、頑張ってね。シュウジ」
そのカスさに驚いている俺たちを置いて、アサエルは空へと消えていった。
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