第7話 大天使との交渉

「ここから向こうに行くと王都に行けるんですけど……そこに魔法の杖を打っているところがあるんですよ。その店の一番いいものを買ってきてください」




「そこに行けばいいの?」




「はい。お金はこれで」




「え?」




 アサエル襲来から一日が過ぎた。


 今はアサエルとルィーズの会話だ。


 ルィーズはアサエル居候の条件である、おつかいの用件を伝えている。




 その仮定でルィーズは、この世界の通貨をじゃらりと出した。金色に輝くメダルのような物体、それが袋の中に詰め込まれている。


 何気にこの世界の通貨を見るのははじめてなのだが、第一印象は重そう、といった感じだ。現在日本では紙が主流、なんなら紙という実態すらなく仕掛けているのだから。




 しかし俺とは明らかに違う感想を抱いたアサエルは、動揺したように固まった。




「こんなに……どれだけ高価なものを買おうとしてるわけ!?」




 この通貨の価値は知らないが、天使が青い顔をするくらい、らしい。


 日本円で考えたいところだが。


  


「銅貨は日本円で百円。銀貨はその百倍。そして金貨はその百倍。それが三十枚だから……」




「三千万!?」




 そんな分からなそうにしている俺にアサエルは望み通りの説明をする。




 というか金貨一枚百万円かよ。


 言葉を聞いただけでクラクラしてしまう。


 一枚でどれだけの価値を持っているのか……。魔法の杖がどれほどのものなのかは知らないがそれほど値段がするものなのか。




「あれ? でも杖もってなかったっけ?」




そういえば彼女は元から結構よさそうなものを持っていたような気がする。


 魔法の杖何てその一本しか見たことがないエアプ以下の大にわかが評価するのもおこがましいのは分かっているが、それ単体で圧倒されるなにかはあった。


 


 それを買い変えるなんて。ポンポン払える金額ではないだろうに。 


 




「あれもいいんですけど……滅茶苦茶いいものが入荷しているのが伝わってきてて。だからずっと欲しかったんですよ」




前の杖よりも優れているものを買いたい、らしい。


 その望みなのだが、今まで継続的に叶えられなかった理由をルィーズはまた解説する。




「あの店の店主が陽キャ過ぎて……勇気出ないんですよ。あと王都は人多いし。アサエルさんが来なければ、シュウジに頼むつもりだったんですけど」




 結局人目に出られないことが原因らしい。


 そんなときにアサエルが来たから、ここぞといわんばかりに頼んだようだ。俺に頼もうとしていたことも相まって、本当に行きたくはないらしい。




「あとこれ。ナビゲーションボールです。魔力を込めました。道に迷わないように、その店まで案内してくれます」




 そしてルィーズは、アサエルに光っているボールを渡す。 




「まあ分かったわ。買ってきてあげる」




「ありがとうございます」




 そうして要件を伝え終わり、アサエルは彼女の望みを承諾した。




  ***




「おーい。ナビゲーションボール出さないのか? あと王都はそっち側じゃないぞ」




「……何よ。私とそんなに話たかったの?」




「いや。まあ間違ってないけど。ついていくだけだよ」




「え~? 私とデートしたかったの?」




「いや。九割は疑いだけど」




 俺は玄関を出て、羽を広げて飛び立とうとしているアサエルに声を掛ける。


 三千万。そんな大金をもって彼女が血迷わない訳がない。


そんな彼女を見張るために、俺も行くことを決意する。




「はあ!? 私は天使よ!? この大金を盗もうなんて、思う訳ないじゃん!!」




「誰がイカサマで天界追い出されて泥棒に入った落ちぶれ天使を信じるんだよ。それと……」




 結局ナビゲーションボールを出し歩きだした彼女についていきながら、ここに来た経緯を説明することにする。


 おそらくルィーズにとって三千万円よりもアサエルを失うことの方がショックは大きいだろう。




「説得だよ。多分アサエル的にもここにいた方が得だぞ?」




 それを避けるための行動だ。


 そんなショックを受けるルィーズなど見たくはない。


あとは、この世界の街並み、というのも見ておきたい。結局異世界に来てから、森の中の屋敷しかみていないのだから。




「そんなに私と一緒にいたいの?」




「いや、ルィーズアサエルのこと相当気に入っているから。いなくなったら寂しがるだろ」




「まあの子はいい子だけど……天使は自由に羽ばたく生き物なのよ」




 何故威張れるのか。


だがそんな彼女にも、それがどれだけ損であるかを伝えなければならない。




「まずはルィーズ。多分滅茶苦茶強いぞ」




「まあ確かに、拘束魔法は全然動けなかったけど……天使を拘束できるのは相当な腕前であることくらいわかるわよ」




「そんな次元じゃないんだよ」




 まずはルィーズの説明。


 彼女の強さを語れるほど、彼女のことを知っているとは思っていないがそれでも垣間見えてしまう。


 彼女の魔法の果てしなさが。




「一つの生態系を維持してんだよ。この森全体、ルィーズが動かしている」




「は? 何言ってんの?」




「自分でも何言ってるかわからねえよ。でも、そうなんだ」




 驚いているアサエル。


 普通に小さくてかわいい少女が一つの森を形成しているというのは考えられないというのは全くその通りだが、そうなのだ。




 この木々一つ一つには彼女の魔力が流れ込んでいる。


 それは彼女がこの木々一つ一つを思いのままに操れるということだ。これはルィーズから説明済みで、以前彼女の意思で暴れまわる木々を見せてくれたことがあった。




 そのおかげか。


 俺の一日のうちの唯一の仕事として任されている食料の確保は、決まった時間に決まった場所に行けば完了する。




狩猟済みの動物と木の実や野菜が前述の行動をすれば手に入ってしまうのだ。それは全て、この木々が行っていることなのだろう。




「超広大な範囲の魔法を継続して使えているけど、それだけじゃないと思うんだ。たいていのことは魔法で解決しているし、マジで万能だと思う。そんなルィーズから逃げ切ると思うか? 例えばナビゲーションボールで追えたりもできちゃうんじゃないか」




 さすがの彼女も首を横に振る。


 正直生物としての格が違う。天使であるこいつの前でいうのもあれだが、生物としての格が違う。




「それに、ここの暮らしは楽だぞ? マジで。三千万なんかよりよっぽど価値がある」




「確かに……あんたに納得させられるのも心外だけど、言い返せないわね。まあ、あの子も可愛くていい子だし。もう少しいてあげるわ」




 何とか説得には成功できたようだ。


 何故上から目線かは分からないが、一件落着といっていいだろう。


 ということで話題を変え、別の気になっていることを聞くことにする。




「そういえば召喚特典って言ってなかったっけ? あれって何なの?」




「え? あ、いやあ~~」




 それを聞いた瞬間、頬を掻きながら目を反らす。


 まあ何となく察するが、さすがはこの天使である。




「手違いで俺のもとに来なかったって言うんなら、全然いいよ。召喚者が良すぎるから、むしろ感謝してる」




「うん。まあね。許してくれるなら……まあよかった」




 最強の剣なんてなくても、ルィーズに出会えたことの方がよほどうれしかった。それに俺が持ったことで扱えるとも思えないし。飽きて売ることが関の山だろう。


 そんな俺の解答にアサエルはたじたじに返事をする。一応罪悪感はもっているのか、しかしまあこれ以上は詮索しないようにしておく。




(言えねえ!! なんでこいつこういう時に限って滅茶苦茶いい笑顔で許してくるの? そんなんじゃもっとまずいミスした何ていえないじゃない!! いやがらせ?)




 そんな心の内を隠し、アサエルは何とか隠し事を胸の内に秘める。


そしてごまかすように、彼への煽りを。




「さっすが!! 快く許してくれるなんて、ヒモになって心の余裕ができたの!?」




「ヒモじゃ……ヒモじゃ、、ヒモじゃ。ヒモなのか?」


 


「だからそういってんじゃん。ってあ!! 見えてきたよ」




 ツッコもうとしたのに、それができないのは的を射ているから?




 そんな衝撃の真実に気付いてしまったとき、俺たちは王都へとたどり着いた。

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