第11話 大天使VS聖騎士
「む? 何だこの剣は!? 見たことないほどいいできだ!!」
力強く、それでいて美しい少女の声で初めて、自分が剣であることに気づいた。
そうしてぼんやりと映る視界が捉えたのは赤髪の美少女だ。
髪色と同じ色をした瞳と左目につけた眼帯が特徴的な人物。
軽そうな装備と対照的に腰に剣を
そんな彼女は俺をひょいと持ち上げると、とてつもなく凶悪な笑みを浮かべた。
「なんて名剣だ。よし。今日からこの剣の名前は、仁義に仇名し漆黒の大イーヴィルソード剣 ~血塗られた月に導かれて~だ!!」
(ダ、ダせえええええええ!!)
自分の体が何故剣になっているとか、この女は何者なのかとか、言及したいことはたくさんあるのに、最初に出てきたのは彼女のネーミングへのツッコミだ。
自分の体が剣になるというのは、人類史上初と断言できるほどの出来事のはずなのだが、それを押しのけ優先すべき事柄に挙げられるのは相当なことだ。しかし彼女のネーミングは間違いなくその相当なこととして扱えるだろう。
ルビを振るな。仁義に仇名すな。副題をつけるな。
俺も中二病を拗らせてはいるがそれがダサいと思えるほどには健全に育ったわい!!
「あ……あのお。そちらの剣。私たちのなんですけど」
そうやって彼女のネーミングに思うところを思っていると、気まずそうにアサエルが俺を回収しにきた。
おおよそ俺がこんなことになった元凶。
正直マジで殴りたいが、今はそのダサい名前から逃げることに徹するべきだ。というか俺は、人間に戻れるんだよな。
「む? この名剣の持ち主は君のだったのか? 私が見てきた中でも最高の剣に見える。どうか、譲ってくれないだろうか」
「まあね。名剣だから、金貨百枚はくだらないわよ」
「そうか……生憎持ち合わせはその半分だが、明日までには出せる。それではだめか?」
「!?」
赤髪の少女にアサエルは吹っ掛けたつもりだったのだが、それを簡単にこなす。
それほどの金額をこれほどあっさりと叶えられる財力。何者なのか、この人は。
「う~ん。もしかしてその剣に金貨百枚って……高い?」
「いや。安いくらいだな。本当にこれほどのものは見たことがない」
「じゃあ、もっと出せるの?」
「ああ。その十倍は。明日までには用意できるぞ」
「え? すぅ~~~」
おい!!
何、金に目が眩んでんだ。というか俺には日本円で一億の価値があるのか。素直に照れるが、そんなことはどうでもいい。
このクズ天使にこのふざけた交渉を任せてしまったら、俺は売り飛ばされてしまう。
結局頼れるのはルィーズしかいない。来てくれ……早く。
俺の名前がとんでもないことになってしまう。
「そんな金額を即決してほしくないからさ。とりあえず落ち着いて話さない? ほら、落ち着いて。荷物を置いて、座ろう?」
「ああ。そうか? 私は早くこの剣がほしいのだが」
圧倒的大金に靡かれそうになっていた彼女だが、意外にもまともなことを述べた。
赤髪の少女に俺やその袋を置かせ、ちょうど近くにあった切り株に座ることを促す。これから何を話すのか、と考えていた時、風が俺とその金貨五十枚が入った袋をさらった。
「しゃああ!! 天使は欲しいものは全部奪い取るものなんだよお!!」
風と勘違いするほどの速さでその二つを盗んでいったのは、天使とは思えない発言をしているアサエルだ。
まだまだ彼女のクズさは底知れないが、今回ばかりは彼女の手癖の悪さに感謝するべきなのかもしれない。
そして金貨五十枚、そして俺を盗ったことにアサエルは勝ち誇りながら宙をまっていたのだが__。
「へ?」
「続きだが、金貨何枚ならば譲ってくれる?」
何が起こったのか。
大空に飛び立っていたアサエルは次の瞬間先ほどの交渉の席へと座らされていた。アサエルも、無論シュウジも何が起こったかは分かっていない。
唯一その不可思議の原因でありそうな赤髪の少女だけが、何事もなかったかのように交渉の続きをしようとしている。
「君は急に剣と金貨をもって空を飛びたくなった。そうだろ?」
「は、はい」
その発言は直前の不敬を許すというもの。
しかし彼女から出てきている凄味は、アサエルに緊張感と恐怖を与えていた。
彼女は強い。そこに間違いはない。
実力行使で来られれば一瞬で何もかもを奪われる。
そんな思いから、アサエルは言葉を詰まらせる。
中二病はイタい。
それは現代日本では共通認識として存在している。しかしそれは理想と現実の姿が乖離しすぎているから。
実力を伴っている人間がいるとしたら、それはイタいのか。
さすがにあのネーミングはイタいか。そう思いながら、結局俺は何もできないなと、アサエルに運命をゆだねているということにようやく気付いた。
大丈夫なのか? 本当に。
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