第3話 大魔導士との死闘(開幕)

「ふう。今日も失敗」




 暇潰しに始めた召還魔法。


 失敗したことに安心しているのは、やはり突然来る初対面が怖いからなのだろう。コミュ力皆無の私にとっては、非常にリスキーな魔法だ。




 しかし、そんなリスクを負ってまでこの魔法をやり続けている理由。それは__。




「この終わったあとの快感が、たまらないんですよね~」




 魔力を無駄に消費しているこの感覚がたまらない。もはや中毒だ。


 それに、中級魔導士ですら成功確率は千分の一と言われている魔法。この魔法を使う人の魔力が高ければ高いほど、成功率は上がるとも言われているが。




「さすがの私もそこまでの運は持ってないですからね」




 さすがに一パーセントを遥かに下回る確率を引き当てる筈がない。そう高をくくっているときのことだった。


 魔方陣から何か異様な気配を感じ、嫌な予感を押し隠しながら魔方陣を見る。


 すると、そこには見たこともない光り方をする魔方陣があった。




「まさか、成功なんて、そんなこと……。あるわけ」




 そして光が消えたあと、そこには死んだ魚の目をした少年が立っていた。




  ***




「…………」




「…………」




「…………」




「…………」




 深夜の森の中、青髪の少女と対面する。


 見た目はロリ系魔女っ娘。


 魔法使いが被っていそうなとんがり帽子に彼女の背丈より大きい先端が膨らんでいる杖。少し彼女が切るには大きそうに思えるローブに、青髪が特徴的な人物。


 帽子を深く被っているために顔はよく見えないが、時々ちらりと見える部分だけで可愛さが伺える。


 


 そんな美少女に召喚されたのだが俺は今、状況の深刻さに頭を悩まされていた。




(気、気まずい)




 俺が選んだ場所は地獄だったのか。 




 異世界というワードに引かれすぎてこれを選んだのだが、別に世界が変わったとて人間の本質は変わらない。


 コミュ障はコミュ障のままだし捻くれは捻くれのまま。なんなら世界の人間が全員自分の思い通りになるわけでもない。チートスキルを貰っても、それは変わらない。


 というかどこだよ、俺の最強の剣。




 彼女が俺の授かった何かを目的として召喚したのなら、見つけられない時点で終わりなんじゃないか。


あの天使のことだ。手違いの一つや二つがあってもおかしくはない。


 彼女が話しかけてこない理由もそれを見抜かれたから? それかシンプルに俺だから?  あり得てはいけないけど十分あり得てしまう。こんな人間召喚して喜ぶ奴なんていないだろう。




 まずい。考えれば考えるほど彼女と打ち解ける未来が遠ざかってしまう。しかしここは異世界。彼女に見捨てられたらたぶん俺は犬死する。夜の森、という時点でもう、生き残れる気などしないのだから。


  


 つまり彼女は最後に残された希望。


どうにか話を切り出したいところなのだが。一方__。




(へ? へ? どうしようどうしようどうしようどうしよう。本当に召喚呪文成功しちゃった)






少女もまた同じ。


  


 その死んだ魚の目と見つめあいながら、気まずい空間を共に過ごす。


 時間にしてほんの数秒。しかし体感では果てしなく長く感じるその時間を、どうにかして必死に終わらせようと頭を掻き回す。


 相手からこの静寂を破ることを待って、待って、しかしその時は訪れない。




 召喚した彼を見捨てない程度には責任感はあるつもりだ。


だからって初対面の男に話しかけられるほどのコミュ力も、自分から話しかけるほどの勇気も出てくるはずもない。  




 彼になんて思われているんだろう。


 森の中異世界で頼れる人間などほぼいないというこの状況で、私を頼ろうとしていないのはなぜなのだろう。というか私に見捨てられたら詰みなような気もするのに、話しかけてこないなんて第一印象最悪なのではないか。


 せっかく異世界に来たのに召喚士がこんなんだから落胆してしまったのだろうか。 




 そんな思考が頭を飽和する。


 しかし見捨てられない。さすがに私という最後の希望を費やすわけにはいかないから。つまるところ__。


 


(家に招き入れるしかない)




(家に招いてもらうしかない)


 


 お互い目的が合致した、コミュ障同士の心理戦が幕を開けた。


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