地下の皇帝

 そこは、巨大な穴だった。

 カラスマはぐっと息を呑み込んで、その穴を見下ろした。

「ここが、地下帝国に続く穴だよ。もとは小さな鍾乳洞だったらしいけど、三百年かけて建国されたんだ」

 ライムは腕を組みながらそういった。そんな話をしていると、一人男が近づいてくる。

 ピンク色の肌に、大きな灰色の瞳、それは、ライムたちとは違った、宇宙人、であった。

「ライム様でしょうか」

「おおこれは、エレーベーターの」

 ライムはカラスマとマリアに向かった「この人についていけば、地下帝国につくよ。それから、バルバロという宿に行きなさい。今日と明日まで泊まれるようになっているから、明後日の便に乗りなさい」

 カラスマは一度に覚えきれず二あたふたして、しかしそれを笑いながらライムはポケットから何かを出した。

「ここにすべてのことが書いてある。この通りに行けば、月まで行けるはずさ」

 達者でな。

 カラスマたちは船に乗り込むライムに手を振る。

 遂にあの運転手の男は外へは出てこなかったが、そのまま船がどこかに行くまでずっと手を振った。

「それでは、そろそろ行きましょうか」

 ピンクの男はくるりと後ろを向いて歩き始めた。マリアはそれについて行き、更にその後にカラスマが続いた。

 この惑星はまるでA国の映画に出てきそうな砂漠地帯だった。カラスマたちはその砂漠に引かれた一本の道を歩いていく。たまにその道を大きなトラックや小さなバイクが通り過ぎていく。

「ここです」

 それは大岩に不格好に取り付けられた鉄の扉だった。

「ここから、帝国に続くエレベーターに乗りますよ」

「先程の大きな穴から入るんじゃないんですね」

 マリアはそう言うと、「あそこからは、別のものが出入りするのですよ」とピンクの男が言った。

 ピンクの男は鍵を使い扉を開ける。その先はもうすぐに両面ガラス張りのエレベーターになっており、三人はその中へと入っていった。

 扉を閉め、ボタンを押すと、ぐわんと大きく揺れる。そして、天井についているメーターがイモムシ程度の速度で動き始める。

「下までつくにはすこし時間がかかりますが、地下自体はすぐに見えてきますよ」

 ほら、というと、両面のガラスが急に明るくなった。

 下を見る。

「うわあ」

 マリアが思わずに声を漏らし、自分でもその事に気づいたのか顔を赤らめた。

「これが地下帝国です」

 それは、もうすでに地下空間にいるはずなのに、まるでそれから街を見下ろしているようだった。しかし違うところといえば、よおく遠くを見ると、壁のように茶色い地層が見えていることだった。

「今は大体地下五百メートルですね。このままあと千五百メートル降ります」

 上から見ると、国の明かりがキラキラと灯っていて、まるで宇宙の星のようだった。

 そのままだんだん下に下がっていき、やがてガタンとエレベーターが止まり、扉が開いた。

「どうぞ」

 ピンクの男は催促し、マリアとカラスマは外へ出た。

 土と炭の香りが漂っている。煙突からもくもくと煙が立ち、それがある穴に吸い込まれていった。

「ようこそ、地下帝国へ」

 ニコリと、ピンクの男は笑った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る