第27話 陽だまり
鳥羽は急いで上司に望の外出について話をしてくれた。鳥羽ともう一人刑事が付いてという条件で許可が出たため、午後二時にはホテルを出た。
もう一人の刑事も合流し施設に向かった。施設に着くと、建物はかなり老朽化しており、遠めでも古さが伝わってくる。規制線の外からゆっくりと施設を見て回ることにした。遺体があったのは給食室の古い冷蔵庫だということだ。
望がここへ来たのには理由があった。グラウンドや、花壇の跡地には子供たちが遊んでいた面影が多少感じられる。遊具の近くにはサッカーボールらしきものが見え、花壇には花の名前が書かれたプレートが斜めに刺さっていた。
しかし裏に回って職員室、給食室を見ると、ひどい落書きだらけだった。落書きのある壁をカメラに収めながら、望は一つ一つの言葉をよく観察していた。一番多かったのは間島に対してのもの、そして亡くなった男の子達やその親に対するものも多かった。望はここに落書きを残した人々の心情を想像しながら視線をゆっくり動かした。ある個所で、望の目が止まった。
「鳥羽さん…見てください、あれ。」
鳥羽が目を凝らし、それに気が付くとギョッとした。そのまま鳥羽は一緒に来ていた後輩の刑事にこう告げた。
「お前、あれ知ってるか?間島は行方不明後にここにきてるぞ。」
そう、理子の日記にあった間島の筆記体が、壁の隅に描かれていた。字の震え具合からして本人の字であることに間違いなかった。やはり今回の殺人も間島が行ったのか。望の心臓がどんどん騒がしくなっていった。鳥羽も険しい顔をしている。望はそのサインをズームしシャッターを切った。給食室の裏には職員駐車場、大きな竹藪があった。職員駐車場には近くの給食室の窓ガラスが割られ、破片が散らばっていた。
誰かが怪我をしたのだろう。ガラスには赤黒い血液が付いているのが分かった。ゆっくりと動かす視線の奥で望は何か違和感を覚えていた。先ほどの赤黒い血がチカチカとフラッシュバックする。胸がざわつき、何か大きなことに気が付いたような…壁の落書きだけではない、ここにきてからさらに動悸がひどくなった。
「鳥羽さん、ここのガラスの破片はいつからあるのですか?」
「いつ…詳しくは施設管理の人に聞かないといけませんが、最近ではないはずです。落書きもそうですが、施設が移転してからこのようないたずらが始まったみたいですから。」
確かにガラスには多くの汚れがあり、破片もかなり広範囲に散らばっている。給食室の窓枠には大きな蜘蛛の巣、変形も見られる。確かにここ最近割られたものではないようだ。望はどんどん早くなる鼓動とともに、胸が痛くなってきた。目を閉じた。 そんな望の様子を心配そうに鳥羽が見ている。目を閉じると、望が過去にみたある光景が浮かんだ。
あの足の動き、まるでガラスでけがをしたために足の裏を地面に着けないように歩いているようだった。自分の整理された思考の先で恐ろしいことに気が付いた。
倒れこんだ望を支えるように鳥羽ともう一人の刑事が駆け寄ってきた。すると、後輩の携帯が鳴った。後輩は足を止め、電話に出た。それと同時に鳥羽が望を支えるように肩に手を回した。望は鳥羽の耳に口を近づけた。「大丈夫ですか?どうしました?」慌てる鳥羽の声を消すように望は鳥羽の口に手を被せた。
望の何か伝えたそうな様子に鳥羽はすぐに黙り耳を近づけた。
「西田先生ではありません。間島でした。
私が会ったのは間島でした。早く警察の方に伝えてください。
西田先生を保護しているんじゃないです。あれは間島です。」
望はそこで徐々に意識が遠のく感じがした。遠のき始めた意識の中で、後輩が慌てたように大きな声で鳥羽に話しているのが聞こえた。
「鳥羽さん、殺されていたのは西田医師でした。遺体の損傷が激しく…。」
望は完全に意識を失った。
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