第26話 支配者は



 ここまでどのくらいの時間読み返したかわからない。理子の日記の内容は二人が想像したよりも状況をひどく捉えられるものだった。

 理子は、一度は西田先生のおかげで、支配する側から脱却できた。理子にとって支配=性提供なだけに一時的にも脱却できたのはいいことだ。しかしまた施設長と出会い、年上の男の子たちに性を蔑ろにされ、過去の自分に戻ってしまった。

 どれだけ苦しい思いをしていたのだろう。その証拠に理子は施設に入ってから、以前よりも異常になっていった。

 結果、理子は殺人を犯した。実際に犯したのか、指示して他人に殺させた教唆なのか、そこは不明だが、理子は一線を越えていたようだった。

 さらに西田医師とも小学生のときすでに知り合っていた。西田医師は、間島が最初ではなく、理子が最初だった。西田医師は初め、理子の治療に成功しかけていたが、理子の精神が成長することで、理子がうまく隠せるようになりその異常さを見過ごしていた。理子は自分の手元から離れる支配対象を手に掛けた。間島には自分の存在を黙らせることで、その期間でより間島との絆を深め、最終的に結婚という形で永遠の支配対象を手に入れた。西田医師が今の状況で警察に対して保護を求めているのには、やはり理子の事件について何か知っているためなのだ。

「西田先生は今も警察の保護下ですか?」

「そのはずです。まだ間島が見つかったわけではないので…。この内容、中学生二人を殺したのは間島単独の犯行と思っていましたが、理子さんが指示していたかもしれないなんて。理子さんは間島と結婚後も間島を操っていたのでしょうか。」

「この内容だと理子さんの男性に対する支配的な性質は改善されていません。過去に犯罪を起こさせるほど支配できた相手がもう一度自分のもとに戻れば、また操ろうとしたでしょう。西田先生はどこまで知っていたのでしょうか。」

「我々もこの日記を見るまでは、この事実を知りませんでした。先生からこの内容に近いことを聞いたこともありません。西田先生は知らなかったのでは?」

「どうでしょう。幼かったとはいえ早い段階で理子さんの異常性に気が付いていた医師です。気づいていても可笑しくないと思います。先生からもう一度この内容について聞いたほうが良さそうですね。」

 望は日記の続きを読み始めた。


 結婚…手に入れた。私だけのお兄さん。嬉しい。間島さんは私のことをずっと守ってくれた。これからは私が彼を守っていくの。誰にも邪魔させない。先生からのプレゼントだ。私の大事な人たちが二人で私を喜ばせるためにあんなに素敵なことをしてくれた。もしこれで間島さんが病院から出て、私と一緒に暮らすようになっても安心して生活ができるはず。


 初めての外泊。私の家で彼のお父さんの話を聞いた。彼も私と同じような経験があったみたい。でも私と違って彼はお父さんにされたことを忘れようとしている。


 二回目の外泊。彼にひどく怯えられた。でもみんなはじめはそう。ああいう記憶は何度も同じことを繰り返して気持ちよくさせるのが一番いいの。今日彼は自分からお願いしてきた。私と同じ。このまま乗り越えられる。


 日記はここで終わっていた。理子の日記は基本的に殴り書きで、日付は書いていない。亡くなる最近までの内容で間違いはない。

「鳥羽さん、もう一度西田先生に会わせてもらえませんか?」

「どうでしょう、今西田先生は保護対象ながら事件に最も深く関わった人物としてある意味マークされています。報道機関の方に会わせることができるかどうか…警察が全て調べきったら許可が下りるかもしれませんが、すぐには無理だと思います。」

「そうですよね、遅くても大丈夫です。」

「あと、もう一つお願いがあって、私も遺体とこの日記が在った現場、旧陽だまりの家に行きたいです。」


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