第23話 明らかなこと



 鳥羽との電話を切り、デスクに戻った。デスクに戻ると黒澤に話しかけた。

「間島と理子さんには理子さんの体のことで問題があったかもしれない。間島は常に依存先を求めていたし、子供が好きだった。理子さんの妊娠できないという問題が許せなかったのかも。もし理子さんが間島にそのことを伝えたのがあの事件の夜だとしたら、結婚したのに秘密を抱えて騙されたと感じてもおかしくない。西田先生いわく間島がそのことを知る様子はなかったようだし。」

「妊娠かあ。本当に好きな相手なら二人きりで人生終わっても僕はいいですけどね。」

「間島にとっては子供を作るということが大きな意味を持っていたのかもしれないわね。」理子は自分の体を傷つけ、地下室に信じられないような汚い言葉を残していた。理子も精神的には病の状態だったのかもしれない。

 手紙にもあったように理子の間島に対する愛情は深く、間島との関係を両親や世間に認めてほしがっていた。しかしそんな愛する夫に重大な秘密を抱え、打ち明けるのに躊躇し、外泊のタイミング、おそらく男女の営みの回数が増えるたびにまた罪悪感がぶり返し、ついに打ち明けた。間島はどう受け取ったのだろうか。

 悲しんだのか怒ったのか、もともと精神が弱い間島はその告白を受け止められなかっただろう。

 その日の夕方、とある報道がされた。見出しはこうだ。

 「妻を殺害した犯罪者間島が逃亡。」

 一気にテレビでも報道され始めた。間島行方不明の件が表に出た。

 望は急いで鳥羽刑事に電話を掛けた。しかし報道の件で忙しいのか出なかった。望はメッセージを入れ、間島の目撃情報がないか、今回の情報がどこから出たのか突き止めようと必死に検索した。どうやら一番初めの情報源はやはり週刊誌のようだ。

 警察関係者しかこの情報は知らないはずだが、一部望のように口止めありきの情報ルートがあったのだろう。ただこの情報については協定によって制限がかかっている情報のため多くのマスコミは知っていても協定がある限り報道はできないはずだった。ただ今回の週刊誌は報道協定連盟に加盟していないマイナー週刊誌のようで、警察との協定の効果がなかったらしい。しかしそういう場合警察からそのルートに情報が流れることもほとんどの場合はありえない。未加盟のマスコミに情報提供することも違反行為に該当するため、大手や連盟加盟社は今後の警察との関係性を考えてその危険な橋を渡る者はほぼない。違反者が出たことは明らかだがそんなことよりこの報道によって嘘の情報が拡散されることが望にとっては恐ろしいことだった。

 すでにインターネット上では間島かどうかも分からない男性の画像が回っていたり、噂話のような内容の拡散が始まっていた。検索していると望の電話が鳴った。鳥羽からの電話かと思ったが理子の父親からだった。

 「家に訳のわからない人たちが大勢来て、これ以上妻を疲れさせないために一時的に海外へ行こうかと思っています。警察の方には事情を説明していつでも連絡が取れて居場所が分かるのであれば海外で過ごしてもらって良いということでした。今日の夜には飛行機で発とうと思っています。もしかしたら今後連絡の時にご迷惑をかけるかもしれませんが妻を守るために日本からは一時離れます。 

 すみません。間島がはやく見つかることを祈っていますし、理子を殺した罪を償ってほしいと強く望んでいます。」父親の声の後ろから騒がしい音が聞こえ続けていた。声には張りがなく疲れ切っている様子は望にも伝わってきた。

 まずいことになった。こうして間島や理子の関係者が過激な報道から身を隠したり、警戒することで望の取材もやりづらくなるだろう。

 しかしメリットもあった。これで間島の情報が集まれば、望は怯えて暮らす必要が無くなるかもしれない。どうなろうとこの事件を解決に導くにはマスコミの力も必ず必要なはずだ。


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