第22話 隠し事



 翌日黒澤が社用車に乗って望を迎えに来た。

 今日は理子の両親に会う予定だった。記事を読んだご両親から「思い出したことがある。」と連絡が入ったのだ。急ぎのようだったため朝一で黒澤に連絡し来てもらった。

「話したい事ってなんでしょうね。この間話を聞いた時も相当な内容でしたけど。」 そういいながら黒澤は怪訝な顔をした。おそらく望が相当酒くさかったのだろう。黙って自分の持っているガムを手渡してきた。小さくごめんと呟きガムを口に入れた。

 以前に聞いた理子の歪んだ一面には驚いたが、望もまた両親の話をもっと深く聞きたいと思っていた。理子の両親は少し疲れた様子だった。マスコミの対応や近所からの目、その他にも心労があるのだろう。

「実は警察にもお二人にも話していなかったことがあります。理子が遺体で見つかる前に家の固定電話に電話がありました。電話は男からで、間島ですと言いました。

 彼はその時理子との結婚について、また挨拶できていないことの謝罪などをひたすらつらつらと話していました。電話に出たのは妻で、妻の様子が可笑しいと思った私はスピーカーで話すようにして二人で電話の対応をしました。間島は戸惑う私たちは無視して興奮した様子でこう言いました。理子さんを愛している。これからどんなことが世に出回っても僕たちは本当に愛し合っています。不幸にさせない。守ると約束する。

 その電話は理子が発見される前日にかかってきました。このことを伝えずにいたのは川本さんや警察に言ったことが発覚すれば理子にどう思われるかわからなかったのと、川本さんが理子の情報を正しく使ってくれる人だという確信がなかったからです。

 記事を読んでやはり理子を殺した間島を許せない気持ちが沸き上がり、まずは川本さんに伝えようと思いました。記事の内容は私たちが望んだ守ってほしい理子の秘密が守られていて安心したのです。

 そしてもう一つ、これが昨日家に届きました。理子からです。」

 それは小さい段ボール箱だった。中には手紙と子供のおもちゃ、写真が入っていた。その写真をみた望は驚いた。あの施設のグラウンドでサッカーボールを持つ少女と間島の写真だった。

 「これは…理子さんはあの施設にいたことがあるんですか。」

 「実は一時期夫婦そろって海外に数か月滞在しなければならないことがあり、理子は体が強くはなかったので無理に海外に連れていくことを辞めました。間島との出会いはその時からのようです。

 この事実もこの荷物によって昨日知ったところで、正直混乱しています。私たちは理子のことを親戚の家に預けていったのですが、どうしてそうなったのか、その親戚があの施設に理子を預けていたようです。理子を預かってもらっている間、一定の金額の仕送りをしていました。もうその親戚は亡くなってしまっているのですが、そのお金が目的で理子の面倒を見てはいなかったようです。

 どうやら理子には親戚が預かっているということのままでと口止めをしていたようですし、理子も冷遇されるくらいなら施設にいたほうが楽だったのでしょう。理子の手紙もそのことが書いてありました。理子は間島との出会いは運命だと、今の外泊訓練が進み、いつか間島と暮らせるようになるまでに私たちに関係を認めてほしい、と強く書いてありました。読みますか?」

 「読んでもいいならぜひ。ありがとうございます。」

 理子の手紙は便箋七枚にもわたる長編で、間島との出会い、施設で男の子達から守ってもらった、遊んでもらった思い出、これからの結婚生活についての理想が綴られていた。文面からは理子がどれだけ間島を大切に思っていたかが伝わってきた。それと同時に関係を認めない両親に対する強い怒りも現れていた。理子の手紙を返すと望はこう聞いた。

 「施設から戻った後理子さんに何か変わったことはありませんでしたか。当時何か気が付いたことなどはなかったのでしょうか。」両親は顔を見合わせて、恐る恐る話し始めた。

 「実は前回お見せした地下室のあれ…あの症状は施設から戻り、しばらくしてから始まりました。最初はいわゆる反抗期だと思っていました。しかし理子は少し様子が違った。私たちにも止めることができませんでした。しかし理子は間島と出会い昔の初恋が再燃したと、そして思っていた相手と結ばれることで信じる相手が間島に変わったようでした。間島と出会ってから理子は地下室に行かなくなりました。理子を愛していたので自分たちが親戚に預けたせいで理子は可笑しくなり、間島と出会い、殺されることになった、この事実は私たち夫婦にとって耐えがたいことです。今となってはその時その時にしっかりした対応をしていればこんなことにはならなかったと毎日考えます。」

 望は夫婦の話を聞いて複雑な気持ちでいた。探していた少女は理子だった。

 「ありがとうございます。とにかく間島からの電話については速く警察に伝えてください。よろしければ私の知人にこの件に関わっている刑事がいます。連絡してよろしいですか?」

 夫婦は泣きながら頷いた。理子は鳥羽刑事に連絡した。鳥羽刑事はすぐに同僚の刑事をつれて夫婦の家に来た。鳥羽刑事に大方の事情を伝えた望は急いで記者部に戻った。記者部に戻り記事を書いていると、鳥羽刑事から着信があった。

 「川本さん、今時間ありますか?」

 「ええ、大丈夫です。」

 「良かった。先ほどは通報ありがとうございました。一つ追加で夫婦からわかったことがありまして…夫婦はもう一つ我々に告げていなかったことがありました。それは実は理子さんは夫婦の遠縁から引き取った養子だったようです。色々な事情が重なり夫婦の実子のようになっていましたが、我々警察で戸籍を調べたところ夫婦の本当の子供は出産時に亡くなっており、遠縁の女性が生んだ子供だったようです。子供を諦めきれなかった夫婦は理子さんを引き取り自分たちの本当の子供として育ててきました。理子さんは結局そのことは知らないまま亡くなったようです。」

「そうだったんですね。分かりました。わざわざ連絡いただきありがとうございました。こちらも何かあればすぐ連絡しますね。」

 やはり理子にもあの夫婦にも大きな秘密があった。


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