第20話 見えたもの



 黒澤と鳥羽刑事とともに会議室に戻った望は、こう切り出した。

「実は私はこの事件の取材を始めたときから間島一人の犯行にかなりの疑問を持っていました。事件の前にすでに精神の異常を来していた人物が二人の男の子、しかも中学生という体力のある子供を殺し、バラバラにして十二年も隠し続けるなんてことができるとは思えなかったのです。しかしこんなに長く調べ続けても間島に協力するような人物が全く浮かびません。鳥羽さんはどう思いますか?」

 「確かにその時期すでに間島の様子が可笑しかったという証言があったかもしれませんが、間島の精神状態が悪かったという決定的な証拠がない。もしかしたら可笑しい振りをしていたのかもしれない。その時点で精神科医が介入できなかった時点でこちらには不利だ。川本さんの言う通り話を聞いてみて、確かに俺も間島一人でやるには難しい犯行だったと思いました。十六年前からもっと詳しく調べようと思います。」

 鳥羽刑事にとっても初耳の証言が混ざっていたのだろう。進んだのか、後戻りしたのか、西田医師の話は望の予想をはるかに超え、胸騒ぎが起こり始めた。望達は一度記者部に戻った。西田医師の証言によって間島が父親から性的虐待を受けていたことが明らかになり、そのことによって間島が当時つらい思いをしていたことは明確だ。 しかし犯罪者である父親は同時に教師でもあったため、間島に拒否権を与えずに健康そうな振りをさせた。間島は成長とともに力もつき父親の暴力に対抗する力もあったはずだ。望には一つの疑問が浮かんだ。間島の父親の事故は本当に事故なのか。虐待し続けた父親がたまたま事故にあうこともあるだろう。しかしそこには何らかの意図が働いている可能性もある。望は急いで証言を見直し、記録を確認した。

 「川本さん、この証言を見てください。同僚、近所の人の証言で、間島の父親は飲み会などには参加せず、お酒には弱かったとあります。家に帰らず仕事をしていた、 逆に定時に仕事を終えていたという真逆の証言がありますが、虐待の件を考慮すれば…おそらく毎日定時に家には帰っていた。

 そして実の息子に手を上げていた。ただもともと教師の父親は自分の行為を許せなかったのではないでしょうか。罪悪感から酒などに溺れた可能性はありますよね。」

 「そうね。ただ事故の発生時間は深夜二時。

 翌日は平日で仕事の予定だった。父親は教師としての体面は保ちたいと思っていたプライドの高い人物よ。二日酔いの状態で仕事に言って周囲の人間に何か思われることは望んでいないはず。飲んだとしてもそこまでの量にはしない。もしくはそこまで自制の効かない精神状態だったのか。どちらにしても少し違和感がある。」

 「まさか間島が父親も殺してるってことですか?」

 「わからない。直接手を下すわけじゃなくて、大量に酒を飲ませることならできる。そのくらい恨んでいてもおかしくない。」

 「鳥羽さんに調べてもらうことはできないんですか?」

 「そうね、もう証拠などは絶対残っていないだろうし、深夜のことだから目撃者もいなかったはず。明日また鳥羽さんに会いに行こうか。」

 そうしてその日のうちに記事を仕上げ、第一号になる間島特集ページを発行することになった。

 翌日早朝に望が書いた記事が発行された。事前に警察などにも事前に内容を確認してもらい、発行に踏み切ったが反響は望の思った以上だった。SNSのトレンドに間島や望の名前まで乗り、様々な声が上がった。間島について明かされてなかった情報が出ることで続編を期待する声が早くも出ていた。望はこんなに世間に影響を与えるような記事を自分が書き、自分の名前もまさか世間に知られることになる、ここまで激しい緊張感を持ったことはなかった。

 早朝のニュースを記者部にあるテレビで見ながら朝食をとっていると、望の携帯に着信が入った。鳥羽からだ。警察署ではなく、外で会いたい、それも二人きりがいいという要件だった。黒澤には適当な理由を伝えて、望は会社を出た。


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