第18話 悪いのは



 望はまず殺された中学生二人の評判の悪さが気になった。鷹島にコントロールされる森本という構図から、鷹島の反社会的な性質が見えた。

 森本には知的障害があり、鷹島は自分より立場の低い人間の支配に長けていた。鷹島が森本にさせていた数々の罪は中学生にしては犯罪性がかなり高いものだった。同級生の証言から不登校にさせられた生徒も多く会えた人数だけでも六人にも上った。 不登校の原因を掴むにはかなりの時間を要した。とても二人では取材しきれないため記者部の別チームにヘルプして、当時不登校になった生徒を見つけ出し、できるだけ詳細な記録を作成した。

 六人の中で特に酷いことをされていた人物が三人いた。皆女性で全員が鷹島、森本の性暴力の被害者だった。どんなことをされたのか、やはり当事者たちの心の傷は癒えてはおらず、口に出すことは困難を極めた。根気強く取材を続けることでピースがそろってきた。

 鷹島は中学二年生ながらその強い反社会的な性質を持て余していたようだ。森本をコントロールして女生徒を襲わせた。どの女性も当時のひどい仕打ちを積極的に話したがらなかった。それほど下劣な行為だったのだろう。おそらく森本はその快楽を純粋に好んでいたため、快楽の提供先である鷹島のいうことを何でも聞いたのだ。

 望はもう一人、人を探していた。それは一時期間島と仲良くしていた施設に預けられていた子の所在だ。施設に問い合わせても個人情報のためとその子についての情報は明かしてもらえなかった。すでに退職した元職員にも取材の際その子のことを聞いてみたのだが、存在すらも薄く認識されており全くつかめない。しかし望はその子の存在が気になっていた。愛のない父親との生活、職場での激しいパワハラ、この二つから間島の精神を守っていたのはその子の存在に他ならない。その子に会うことが間島のその時期の精神状態を知る大きなステップになるはずだ。何としてもその子の話を聞きたいが当時のスタッフもあまりその子のことを覚えていないのだ。性別も年齢もはっきりわからないのは探しようがない。

「黒澤君、西田先生に会いに行こう。」

 望は鳥羽刑事に西田医師との面会を希望する連絡を入れた。鳥羽刑事は一人で判断できないとのことで、警察の許可が出次第連絡すると言ってくれた。望は刑事から連絡があるまでひたすら会議室で記事を書き上げた。

「黒澤君、間島の父親は間島を虐待していたと思う?はっきりそういった証拠や証言があるわけじゃないけど、間島が正常じゃないのは誰から見ても本当だった。そんな彼の根底にはよくある話だけど、虐待というひどい経験があって、その経験が彼をあんな風に異常にしたのかしら。」

 「愛がない父親が全員虐待をするわけではないと思います。好きの反対は無関心、とよく言うでしょう?愛がない=無関心というパターンもある。間島の父親が虐待していたという明確な証拠はありません。でもここまで間島の心が歪んだのには何か大きな原因があるはずです。僕たちはそれを明らかにしないといけないですね。」

 「そうよね。でも近所の人の通報について特に気になるわ。だって子供が泣いていただけで通報なんかするかしら。子供のいる家なら鳴き声くらいは当たり前に聞こえてくる。実は普段から間島親子には何か違和感を持っていたんじゃないかしら。」

 しかし情報を整理すればするほど間島と父親の関係性は詳細が掴めなかった。間島の母親が病気で亡くなったのは間島が小学生の時だ。乳がんで進行もはやく闘病生活は半年と短かった。

 母親が泣くなってからの間島は学校には毎日通い、成績も悪くはなかった。毎年の健康診断でも特別指摘を受けたこともない。多くの被虐待児の場合、第三者からの通報で事態が発覚する。間島の場合そういった学校関係での内容は一度も通報歴がない。体育の授業なども休んだこともない、怪我などで病院へ罹ったこともほとんどない。間島の怪我については二度受診歴があるがどちらも授業中、アルバイト中と疑う所見のない怪我だった。虐待がないとすれば、いじめなどもその人の成長に大きく障害をもたらす経験になりえるが、同級生、また当時の担任達からも間島が虐められていた可能性を示唆する証言はなかった。何がここまで間島を危険な人物にしたのか、望は頭を悩ませた。


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