第17話 証言者ⅴ

証言5 彼らの担任

 担任の楠田です。彼らの担任を二年間していました。彼ら二人は小学生の時から素行に問題があったようで、当時の小学校の担任から引継ぎを受けました。あと彼らの家庭の事情も…。

 鷹島君は小学生の時に転校してきて、障害のこともありクラスで浮いていた森本君とつるむようになったそうです。森本君は保育園の時に集団行動に馴染めず、受診を勧めたところ、軽度の知的障害があることが分かりました。知能指数も平均値より少し低いくらいで、当時母親の希望で小学生に上がっても支援学級には入れずに通常学級で過ごすことになりました。初めは良かったのですが小学校高学年になると徐々に学習スピードに遅れが出始めました。しかし母親はその頃から父親や仕事先でうまくいかなかったようで、森本君に対して関心がなくなっていました。支援学級を勧めましたが拒否され、森本君はそのまま中学生になりました。

 一年生の時のクラス決めで二人を同じクラスにするべきか議題に上がりました。小学校からは二人が一緒の方が、森本君が勉強について来やすいとの内容も引き継がれていました。鷹島君は満点を取れるのにわざと中間点を取るようなタイプでした。成績が良すぎると教師たちからはそれ相応のレベルの高校へ進学することを勧められます。逆に成績が悪すぎると指導回数も増え親への連絡も増える。鷹島君はそれを防ぎたかったのだと思います。

 親にできるだけ干渉されない生き方をあの年で身につけていった。鷹島君は施設に行くまではそれほど悪さの目立つ子供ではありませんでした。しかし施設に入所したことで親というブレーキを失った。急激に反社会性が芽生え、爆発しました。止めようがなかった。何人も彼らに酷いことをされていましたし、どうにかするために施設へ指導協力をお願いしたり、カウンセラーなどを導入したりしました。

 しかし彼らはそんなことでは止まらなかった。教師としての力不足は認めます。不登校になった子たちには本当に申し訳ない気持ちでいっぱいです。今は通常クラスの担任はやめ、支援が必要な生徒に勉強を教えています。今もあの時の後悔と罪悪感は消えていません。僕のせいで何人もの生徒が将来の夢を叶えられない状況になってしまった。


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