第12話 コンテンツ



 望はまず事件のあった養護施設を訪ねることにした。「陽だまりの家」というその養護施設は場所を移転し現在も施設として稼働していた現在は施設長も変わり、管理先も変わったためか以前の陽だまりの家とは雰囲気も規模も大きく変化していた。以前施設があった場所は間島の住む実家からわずか徒歩十五分の場所にあった。

 間島は当時アルバイトで施設職員をしており、事件の男の子達とも関わりがあった。しかし間島逮捕時も現在までも、間島がなぜ男の子たちを手に掛けたのか、動機に繋がる証言は施設関係者から出ていない。当時間島は、鳥羽刑事によると「殺して埋めたのは自分だ。運ぶ途中で骨をいくつか無くしてしまった。全てが嫌になった。死なせてくれ。」と繰り返していたそうだ。実家の庭から解体時に使った凶器が一緒に発見されており間島の指紋も検出されている。

 遺体は解体された上に白骨化しており死因は判明しなかった。間島の様子が可笑しかったことは間島が逮捕されたときに出た証言で、その時すでに間島は精神状態がひどく崩れており働くことができずに家にいた。間島が施設を辞めてすぐ、事件が発覚しその時点で集まった証言では、男の子たちが行方不明になってから間島は急に子供たちに声を荒げたり、トイレ掃除に何時間もかけたり、過食と拒食を繰り返していたそうだ。思い返せば、自分のしてしまったことに動揺した結果の行動変化だったのかもしれない。しかしそのとき中学生たちは、自分たちで自転車に乗り出かけたために、事件性の低い家出との見方もあったため間島のそういった変化に目を付ける人は少なかった。

 白骨が発見されたのは、間島の家に近所の世話焼きな女性が訪ねてきた際に、地面に浮き出た骨の一部分を見つけたためだった。発見時間島は家の二階で眠っており、通報によって駆け付けた警察官によって起こされた。間島の家は人が生活していることが信じられないくらいに荒れており、一階のスペースはほとんどゴミで埋まっていた。玄関から二階へ上がる階段のみ人が歩ける幅が確保されており、二階は間島の引きこもり生活の拠点であった。二階の部屋にはテレビと冷蔵庫があり、中央に敷布団が引いてあった。布団は黄ばみ、汚臭が酷い状況だった。世話焼きの女性は主に食事や庭の手入れをしに来ており、新しい野菜を植えるために間島の家の庭を耕したところ骨を見つけた。

 それまでも女性が間島家の庭を触ることはあったが植えていた植物の特徴から深いところまで耕すことがなく、さらにその花壇の近くには古い生ごみ入れのコンポストが設置されていたため異臭にも気が付かなかったようだった。女性は間島家との付き合いが長く、他人とは接触したがらなかった当時の間島も、勝手に庭をいじられる、敷地内に入られることに抵抗を示すことはなかった。女性がその白骨をみて通報したのには理由があり、一番初めに小さな骨を見つけ、白いそれが何か気になったため、さらに深く掘ると、大腿骨の大きな骨が出てきた。サイズがあまりにも大きいため、その女性は人間のものだと気が付き通報したという流れだあったそうだ。

 間島はその後緊急逮捕となった。間島と同時期に職員として施設で働いていた人間を探すのにはかなりの時間を要したが、一人一人探し出し詳細な取材を行った。間島の家は取り壊され、更地となっており、売地の看板が立っていた。しかしいわくつきのためか買い手がつかないとのことだった。

 さらに殺された二人の同級生や施設にいた子供たちにも話を聞きに行った。余計な感情が入ることで証言の信憑性や妥当性がかなりの割合で欠ける。どれだけ多くの証言を集めても真実でなければ意味がない。しかし今の段階で望達にできることはあらゆる角度で間島元人という人間を知ることだけだ。

 そんな中理子についての取材を進めると、間島とは対照的な結果が出た。理子の過去を知る人がいないか再度両親や通っていた学校に問い合わせたが、なかなかそれらしい人物は浮かばなかった。理子はどうやら人付き合いが得意すぎるがゆえに特定の人物と深く関わらなくても学生生活を充実させることができていたようだ。過去に交際していた人物や、学生時代のアルバイト先なども取材に回ったが、ほとんどの人たちが理子に対して同じような印象しか話さず、これといって新たな情報は得られなかった。

 間島の場合、人は言わなくてもいい心のうちまで話し、望達を混乱させた。しかし理子の関係者は理子に対して、本当に一面しか見えていない、そんな印象を与えるほど薄く同じような内容の取材結果となった。足が動かなくなるくらいくたびれた望達は記者部へ戻り取材記録をまとめた。

「黒澤君、今日の取材記録だけど情報量が多すぎるから人物相関図作ってくれる?私は時系列にボードにまとめるから。」

 望はブラックコーヒーを煽って気合を入れた。理子については不透明なまま事件の頁が増えることに強い抵抗はあったが、これまでの方法以上に理子のことを知る手立てが二人には思い浮かばなかった。

 取材の際回していたボイスレコーダーのスイッチを入れた。動き始めたレコーダーから取材の音声が流れ始めた。


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