第10話 危険な医師



「え?保護ですか?」

 望は驚きのあまりリアクションが取れなかった。

「ええ、西田医師から直接保護してほしいと警察に依頼がありました。理由はお伝え出来ませんが、なかなか危険な状況でして…。」望は西田医師が無事であるということにホッとしながらも、警察に保護してもらわなければいけない理由が思い当たらず戸惑っていた。

「西田先生に何があったのですか?警察も先生の意志に沿って保護しているということは今回の事件に何か関係があるということでしょう?間島はどうなっているんですか?理子さんと最後に会話したのは間島のはずです。理子さんは私たちが見つける前に間島と電話すると話していました。理子さんが他殺ならば西田先生や間島の話が事件解決の糸口になるはずです。間島への取り調べは予定していますか?」

 望の絶え間ない問いかけに、鳥羽刑事がさらに緊張感を漂わせた。その鳥羽の様子に望も只ならぬ印象を受け、背筋を冷汗が通った。「間島への取り調べは今のところできそうにありません。川本さん、記事にしないということを約束していただけるならばもう一つお伝えできる情報があります。ただ…。」「ただ…?」まっすぐと鳥羽が望を見た。

 「あまり深く関わるとあなたに危険が及ぶことになるかもしれません。川本さんは先生や理子さんとも一番親交があったと言えます。俺らもこれ以上保護対象が増える事で目が行き届かなくなるのを恐れています。今回の事件は必ず十六年前の事件と繋がっています。警察の発表はすべて知っていますか?」

 「もちろん。でもそこまで鳥羽さんが言うということは十六年前の事件に繋がる証拠でも出たんですか?」

 「理子さんの喉に指の骨が、陰部から下顎骨が出てきました。しかも理子さんの直接の死因は窒息。首には絞めつけた跡がありましたが、それは致命傷ではありません。理子さんの陰部は傷だらけで、小さく砕いた骨が砕かれ尖った状態のまま詰められていました。おそらく意識が朦朧とした状態で喉に骨を詰め込まれた。

 つまり生きている間に喉に骨を詰め込まれ、陰部に骨を埋め込まれた状態で正座をさせられ、徐々に呼吸が止まった。苦しくて動いてしまうはずですが彼女はそのまま死後硬直していた。しかし彼女の血液検査結果によると睡眠薬等の薬物は発見されなかった。これが何を指すか分かりますか?」

 「つまり彼女は苦しくても死ぬまであの姿勢のまま動かなかったということですか?」

 「そうです。解剖を担当した医師によるとこんな亡くなり方は健常な人間であればありえないということです。普通なら痛みや苦痛に抵抗するものですから。理子さんはその反応を抑えたまま呼吸が停止した。

 先ほども理子さんの精神状態について話に上がりましたが、この殺害方法を見ると、犯人は理子さんのそういった特性を理解して、じわじわと苦しみを与えるような方法をとった。」

 「理子さんに相当な恨みを持つ犯人のようですね。他に外傷はなかったんですか?」

 「先ほどの首の圧迫痕以外は骨を入れ込んだ時にできた傷だけです。今回使われた骨はすべて亡くなった男の子たちのもので間違いありません。状態もよく、誰かの手によって丁寧に保管されていたと思われます。」

 「でも、間島は入院していて、他に誰が男の子の骨を保管できたのでしょう?まさか理子さんですか。」

 「そのことで重要な情報が一つ。これが西田医師保護の理由ですが、間島が現在行方不明です。」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る