雲の湧く速度で揺れて夏薊
季語 夏薊(夏・植物)
緑豊かな夏野はまた、咲く花の表情も豊か。
姫女苑、月見草、捩花、九輪草に鬼百合。夏の季語になっている花で、パッと色かたちの思い浮かぶ花だけでもこんなにあるし、歳時記をめくれば、もっとたくさんの名前が見つかる。
そのなかの一つに、鋭い棘を身に纏った、野薊の姿もある。花だけを見れば楚とした佇まいであるが、その下の刺々しい姿には「私に触らないで」と、ツンと構えているような雰囲気。
薊は春から秋にかけて、いろいろな種類が咲く。単に薊といえば春の季語であり、その他季節に咲く薊は、夏薊、秋薊と呼んで区別する。
春、夏、秋、それぞれの薊。俳句の題材として一句のなかに詠み込むには、それぞれのニュアンスを分けて表現しなければならない。たとえば、春は可憐に、夏は力強く、秋は凛と落ち着いて、という風に。
とはいえ、形容詞ひとつだけを充てて表現するのでは、人によって捉え方も変わるだろうし、季語としての本質的なところを描き得ない。それが春夏秋と三つある薊の難しさではないだろうか。つまり、一物仕立てで詠むのが難しいということだ。
となれば、取り合わせとしてその季節らしい情景を添えて表現してあげるのが、こういう季題の攻略法。
拙句は、
雲の湧く速度で揺れて夏薊
〈雲の湧く〉で、入道雲が湧き上がるような力強い夏空を、まず背景に据えた。そこに咲く薊も、がっしりと太い茎をした、野生的な強さを持っている。風が吹こうとも、そよそよと揺れまどいはしない。ゆったりと大きなストロークで、風をいなすように揺れるのだ。〈雲の湧く速度で〉と繋いだことで、その余裕ぶりを表現してみた。
取り合わせの風景と、季語との間をとりもつ言葉。それをじっくりと探してあげた結果、取り合わせの語が映像的にも比喩的にも働いてくれた。
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