船頭も孫と漁村の踊りかな

季語 踊り(秋・行事)


俳句で単に踊りといえば盆踊りのことを指し、秋の季語。


太平洋に面した、小さな地区の盆踊り。漁港のすぐ隣り、猫の額ほどのこぢんまりとした広場に建てられた櫓は、かつてあの震災の津波に攫われてしまっていた。津波の被害に過疎化やコロナ禍の影響も相まって、ずっと途絶えていた盆踊りが、今年になってようやく復活を果たしたのだった。


櫓の上でお囃子を奏でる人の中にも、それを囲んで踊る人の中にも、日に焼けた古武士のような面構えが覗く。漁船の船長やら、はたまた市場の仲買人やら、地域に根を下ろして生きてきた男たちだ。


男たちの傍には、小さな子供たち。帰省した息子、娘たちに連れられやってきた、可愛い孫なのだろう。真剣な顔つきで踊る子供達を脇目に眺めつつ、年配者たちは皆、ニカっと満面の笑みを浮かべている。


「生きてるうちに、孫とこうして盆踊りができる。そんな日が来たんだなあ」


そういう表情だ。



船頭も孫と漁村の踊りかな



本当はもっとこの地域らしいこと、個々人の思い、震災のこと、いろいろ詠みたいのだけれど、十七字という容れ物はとても小さい。

受け止めた思いをどれだけ形にできるか。まだまだ修行が必要だ。


以下、推敲句をいくつか。



船頭も踊る震災十余年


津波打てる町に踊りの声新た


帰り来し人も踊るや渚風


停泊の漁船明かせる踊りかな


海に消ゆ御魂迎へて踊りかな

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