第20話

 黒髪の青年は、兵士達に語りかけながら、進んで行った。進む度に、弓が飛び交い、斬りかかる者達が現れたが、その全てを無視して、語り続けた。これが貴方の望みか?と。


 力の差を知り膝をつく者、その言葉によって何かを決意した者、様々な表情をする者達を通り過ぎてゆっくり歩いて行く。


 そうして、最後尾に辿り着いた。


 「お前が賊の頭か。」


 臣下達に担がせていた、豪華な駕籠の中から、真っ赤な髪の男、エンジョウ・ホムラは降り立った。


 「賊ではありませんが、頭ではありますね。」


 黒髪の青年は淡々と答える。


 「お前に選ばせてやる。我が領を占拠する愚か者よ、服従か死か選べ。服従するなら生かしてやる。」


 そうホムラは言い放つ。それに対し、青年は問いかけた。


 「服従が死ですか。死ぬのは嫌ですね。ちなみにですが、服従するとどうなりますか?」


 「なに、他の街と同じだ。この先にある街は、エンジョウ家の支配となる。税を納め、徴兵に応じるだけだ。これだけで、生かしておいてやるんだ。破格の条件だろ?」


 青年は少し悩む素ぶりを見せた後。


 「どちらも、お断りします。」


 青年はホムラの目を見て答えた。


 「そうか、ならば、死んでもらう。お前達、やれ。」


 常用兵200名、彼らは別名、紅蓮隊と呼ばれていた。真っ赤な鎧を身に纏い、盾と剣を装備している。


 狭き門を通過したエリート達が黒髪の青年を囲う。


 「良い目をしていますね。動きも精錬されている。まるでシンさんが200人居るようですね。」


 青年はそう呟きながら、真っ黒な手盾、"百戦錬磨の盾"を左手に付けながら構える。


 その構えは、全く隙がなく、まるで武術の達人のようであった。


 紅蓮隊の兵士達は少しずつ間を詰める。しかし、青年は動かない。


 痺れを切らした1人が青年に切り掛かった。それを皮切りにタイミングを合わせながら前後左右から青年を襲う。


 しかし、その刃が青年を傷つける事は無い。まるで刃の方が避けているかの如く、当たらないのだ。


 「なるほど…もう見切りました。」


 そう青年は呟きながら、切り掛かって来た者達の、時に腕を、時には足を、時には頭に触れる。


 それだけで兵士達は、まるで自らバランスを崩したように、何故か、転んだり、味方にぶつかったりしてしまう。


 転んでもなお、剣で突き刺そうとする者も居るが、まるで後ろにも目があるかの如く当たらない。


 そして、200名居た紅蓮隊の面々は、懸命に立ち向かったが、青年は無傷のままであった。


 「役立たずの雑魚が、お前たちは用済みだ。」


 

 


 

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