第18話

 天を雲が覆い、雨が降り注ぐ中、辺境の街ルクスには、エンジョウ男爵軍4000人が集結していた。エンジョウ男爵領は総人口20万人である事から、エンジョウ家の本気度が伺える。


 剣や槍を持つ近接兵士が多いが、弓兵もおり、投石器も用意されていた。


 大半は徴兵により動員された者達だ。次男三男が中心となっている。その服装、武器はバラバラだ。


 そして、200名ほどの常用兵も居た。統一した鎧を纏い、盾と剣を装備している。


 彼らは、普段から個人技だけでなく、集団戦についても訓練を重ねていた。


 常用兵は衣食住が確約される為、目指す者は多いが、狭き門だった。


 まず第一に、徴兵された際に手柄を挙げる必要がある。この条件が非常に厳しい。


 なぜなら、ロクな訓練も無くいきなり戦場に出るからだ。仮に訓練を積んだとしても大抵独学である。


 しかも、ほとんどは貧しい家の者の為、十分な身体も出来ていない。


 そんな中で目に留まる結果を出す必要があるのだ。相当な運と才能が必要となる。


 つまり、あの鎧を纏うことは、一種のステータスであった。狭き門を潜った証、戦いにおいて天才であるという証なのだ。


 別の場所では、徴兵されたもの達が話をしていた。


 「なあ、久々の戦だけど相手は何なんだ?」


 徴兵された者達の中には、二度目三度目の者も居た。彼らは少しリラックスした表情で話をしていた。


 「なんだろうな?とりあえず言われるがままに来たけど。」


 「そうなんだ。俺もそんな感じだ。とりあえず、生き残りが目標だけどな。生きて帰れば、金も貰えるし。」


 中には、初めての者達も居る。彼らは緊張と不安に襲われていた。そんな者達を経験者のハンスは励まして回っていた。


 「お前大丈夫か?なるほど、不安か。大丈夫、生き残る事だけを考えれば良い。手柄をあげようなんて思うな。」


 「…どういう事ですか?」


 「この人数だぜ、サボっててもバレねえよ。テメェの命はただ一つだぜ。大事にしなきゃならんだろ。」


 新人は顔色が少しだけ良くなった。


 「マシな顔になったじゃねえか!気負うなよ。冷静にだ。お互い生き残ろうぜ。」


 そう言ってハンスは拳を前に突き出す。


 「はい!」


 新人はハンスの拳に自分の拳を当てた。


 「じゃあな。」


 そう言ってハンスはまた違う新人に話しかけにいった。


 そして雨が降りしきる中、動きがあった。当主ホムラが兵士たちの前に立ち、演説を開始したのだ。


 「これより、我が領地を不法占拠している賊の討伐に行く。対象は我が領地の為、略奪は禁止だ。命令違反はこの炎で焼く。」


 そう言ってホムラは手の平を天に向けた。


 "炎よ"


 そう唱えた瞬間、天向かって巨大な炎の柱が現れた。その柱は天を穿ち、空を覆って居た雨雲を突き破る。


 それでもなお燃え続ける炎がホムラを照らす。地面は溶け、熱風が兵士達を襲う。その空間は何人たりとも、草木の一本でさえ生存する事は許れない。


 その姿はまるで地獄の炎を操る悪魔のようだった。


 「もう一度言う。命令違反者は焼く。焼かれたくなければ従え。死にたくなければ、我に従え。」


 

 

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