第10話

 「では!はじめ!」


 エンドはシン戦と同じように、金剛不壊の盾を構え、相手の出方を待つ。しかし、アイシャに動きは無い。


 「アイシャさん、お先にどうぞ。魔法でも何でも良いですよ。」


 しかし、アイシャは下を向いて動かない。


 「アイシャさん…もしかしてですけど、魔法使えないんじゃないですか?」


 アイシャは顔を上げた。それは言ったらダメなやつやんというような顔をしていた。


 「もしかして…マジです?」


 "ボス魔法使えないって?…"

 "そんな事あるわけないよな?"

 "ボス?早くやっちまって下さいよ!"


 ざわざわざわざわざわざわ………


 「あの…」


 エンドは初めての魔法使い同士の戦いという事で楽しみではあったのだ。しかし、思っていたのと、なんか違う感じになってしまった。


 「えーっと…」


 アイシャが黙って俯いてしまっている為、会話が続かず、戦いも始まらない。


 「あーえー…」


 エンドも困ってしまった。これオチどうするん?と。


 「もしですよ?もし、魔法が使えないのに、魔法が使えると嘘をついていたなら、謝った方が良いんじゃないですかね?」


 アイシャは、はっと顔をあげた。そして、周りを見渡した。


 周りには、心配そう顔をする者、怪しんでいる者、真剣な表情をする者、皆がアイシャを見つめていた。


 それを見て、アイシャは、決意した。


 アイシャは、硬い地面の上で、膝を折った。そして、両膝をつけ、座った。いわゆる、正座である。


 そして、一言。


 「申し訳ありませんでした!降参します!実は、魔法なんてつかえません!元貴族でもありません!騙してすみませんでした!」


 そう言って頭を地面に付けた。そう、土下座である。ファミリーのボスであった者が、配下に向かって土下座をしたのだ。


 皆唖然としていた。それはそうだろう。ずっと信じてきたのに、突然こんな事になったのだから。


 その中で、幹部ではないものの、前々から魔法が使えると知らされていた者達は、叫んだ。


 "うそつき"と。


 そして石を地面から拾い、アイシャに向かって投げた。


 アイシャはその反応を受け入れていた。そもそも騙した自分が悪いと。だから、石を投げられようと、土下座のまま動かなかった。


 しかし、石がアイシャに当たる事は無かった。


 「石を投げている皆さん、私の配下にやめてください。」


 エンドが盾を構えて仁王立ちしていた。そう、アイシャに投げられた石を、全て受け止めたのだ。


 「嘘をついていた事は、悪い事でしょう。ですが、魔法なんていくらでも確認出来たのに、何故やらなかったんですか?」


 "でもよ"

"だってさ"


 石を投げた者達は不満気に呟く。


 「騙される方が悪いとは言いません。ですが、ここのファミリーの掟ならタイマンを挑めば良かったんじゃないですか?」


 皆がエンドを見ている。その手には真っ赤な盾が握られていた。そして、石は止まった。


 「貴方は騙されたのではありません。貴方方が弱かったからです。」


 「彼女がボスだったのは。誰も挑もうとしなかった。勝てないと決めつけてしまっていた。そんな、心の強さ、意志の強さの差です。」


 皆、耳を傾けている。


 「クダルさんも、シンさんも、ここにいる皆が弱かったんです。」


 「私は断言します、彼女は今まで1番強かった。このファミリーに置いては。」


 エンドは、聴衆を見回した。


 「自分達が弱い事を棚に上げてそんな彼女に石を投げるとは、恥を知りなさい。」


 皆、はっとした表情をした。彼女が強かったからボスだったのではない、自分たちが弱かったからだと気づいたのだ。


 「アイシャさん、よく頑張りました。これからは、私がボスです。お疲れ様でした。」


 この日、アイシャは久しぶりに声を上げて泣いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る