第9話

 アイシャは、幼い頃より口が上手かった。小さい商店の店に生まれ、その口の上手さは接客の際に、役に立っていた。


 「アイシャは接客が上手いな!しかも計算も出来るなんて、ウチの看板娘だな!今後も頼んだぞ。」


 そう言って、父親はアイシャの頭を撫でた。


 家族仲は良好で、この世界においては、恵まれた生活をしていた。しかし、それも急に終わりを告げた。


 「アイシャ!お前は逃げろ!」


 「パパ!ママー!」


 その商店は突如強盗に襲われた。それにより両親は亡くなり、店は灰となった。ライバル商店に嵌められたのだ。


 アイシャは涙を流しながら走って逃げた。


 こうして、アイシャは1人になった。そして誓ったのだ。誰にも襲われない住処を作ろうと。奪われない家族を作ろうと。


 そして、その話術で仲間を増やし、今のファミリーを作り上げたのだ。


 そんなアイシャは、ピンチを迎えていた。


 「これより、ボスとエンドの試合を開始する。両者中央へお願いします。」


 そう言ってアイシャとエンドは向かい合った。片方は顔色が悪かったが。


 「え、エンドとやら、こ、降参するなら、い、今のうちだが、よ、良いのか?」


 アイシャは先程の試合を見て、絶望していた。なんせ、速すぎて全く内容がわからなかったからだ。


 よくわからない速度で打ち合いをして、よくわからないが、気づいたらシンが負けていた。


 人は、得体の知れないものに対して恐怖を感じる。しかし、知れることで安心する。台風の時に、川を見に行くことと同じ心理だ。


 故に、アイシャは、試合をよーく見た。目を皿のようにして見た。その上で見えなかったのだ。その恐怖たるや、本人にしかわからない。


 「アイシャさん、なんか声が震えてますけど、大丈夫ですか?顔色も悪いですが。」


 アイシャは思った。そこは触れないでくれと。


 「だ、大丈夫に決まっている!こ、こちらは、お、お前の心配をだな…」


 "魔法ってのはすごいんだな、シンさんが手も足も出なかったんだもん!さぞかし、ボスの魔法もやべえんだろうな!"

 

 外野は盛り上がっている。それを聞いてアイシャは思った。やめてくれと。


 「そういえば、アイシャさんは私と同じ境遇でしたね。どんな魔法が使えるんですか?」


 アイシャは思った。それは絶対に触れて欲しくなかったのにと。


 「そういえば、ボスの魔法見たことないな」


 「…ですね。」


 "確かに、俺も見たことないな"


 クダルもシンも下っ端もアイシャを見て呟く。期待を込めた目でアイシャを見つめている。自分達のボスの強さに期待をしているのだ。


 アイシャは冷や汗をかき、顔も真っ青になってきた。


 アイシャは祈った。とにかく、祈った。どうか、どうか今だけで良いと。負けても良いからどうか、と。


 「では、そろそろ始めましょうか。アイシャさん。クダルさんお願いします。」


 

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