第5話

 エンドはようやく覚醒した。目の前に筋肉が広がっていたが、冷静さを保った。


 「筋肉ダル…じゃなくて、クダルさんですか、先程ぶりです。ご迷惑をおかけしたようですみません。」


 普段は言わない言葉が出てしまったが、なんとか護摩化した。そして、周りを見ると皆が自分を見ていた。正確には、筋肉を見ていたが。


 「エンド!目を覚ましたか!嬢ちゃんが困っていてよ!」


 しかし、エンドは不思議そうな顔をしている。


 「あの…クダルさん、そんなに小声で話してますけど、どうかしたんですか?」


 そう、エンドは左耳が聞こえなかったのだ。耳元で叫ばれた影響で鼓膜が破れてしまった。


 「いや…そんな事はねえぞ?」


 エンドは右耳を塞いだ。すると全く音が聞こえなかったのだ。


 「なるほど…では、試してみましょうか。」


 "盾よ"


 エンドがそう唱えた途端、エンドの右手には直径30cm程度の小さな緑と白の盾が現れた。


 「あれは、夢ではなかったんですね…こんな摩訶不思議な力がこの世界にはあったとは、初めて知りました。」


 そして一瞬、エンドを緑の光が包んだ。そして、エンドは右耳を塞ぎ、左耳の状態を確認した。


 「よし、聞こえますね。では、クダルさんご迷惑をおかけしました。ハンナ、行きますよ。」


 「は、はいっす!じゃなくて!何がどうなってるっすか!」


 そうして、エンドはハンナを引き連れ、立ち去ろうとした。しかし、そうは問屋が卸さなかった。


 「ちょっと待てよ!おめぇ!今何をした!」


 「何って…ああ、ちょっと夢の中で神に会いましてね、魔法を授けられました。」


 クダルは、驚いた顔をして続けた。


 「ま、魔法って貴族様が使うやつじゃねえか!お前、あなた様は貴族だったのですか?」


 クダルは、元々傭兵だった。そして有事の際に、貴族が魔法を使う場面を見たことがあった。その圧倒的な力を前に、心が折れ、傭兵をやめた過去がある。


 「そうですね…貴族か否かで言えば貴族ではないです。なので、今まで通りで大丈夫ですよ。敬語は似合わないので、普通にお願いします。」


 「そうか…ありがてえ。ただオレは、強者にそれ相応の対応をすると決めてる。今まですまなかかった。」


 そう言ってクダルは頭を下げた。周りの群衆はざわついた。あの筋肉達磨が頭を下げているぞ、と。


 「ふむふむ…なるほど、ちょっと予定とは違いますが…ではそのルートで行きますか。丁度沢山人が集まっているので、宣伝でもしましょうか。ただ、クダルさん、その話し方は気持ちが悪いのでやめてください。」



 そう言ってエンドは、違う盾を魔法で作り出した。その盾は、身体全身を覆うほどの大きさがあり、真っ赤な色をしている。群衆は何故か、その盾に、視線が吸い寄せられてしまった。


 「見ての通り、私は力を得ました。この力は、皆にも分け与える事が出来ます。しかし、タダで渡すほど、私はお人好しではありません。」


 群衆は、黙って耳を傾けている。


 「私は今まで思ってました。綺麗な家に住む人達がいる一方で、住む場所が無い人が居る。これはおかしいと。」


 群衆の中には、ちらほら頷く人が居る。


 「豪華な食事をする人達がいる一方で、日々の食事に困る人達がいる。これは、おかしいと。」


 "そうだ"と賛同する者が居る。


 「そんな人達が、困っている人達、私達を助けてくれましたか?」


 群衆は皆、首を横に振る。


 「皆さん、今の生活を望んでいますか?」


 皆、首を横に振る。


 「このままで良いですか?こんな腐った人生で良いですか?」


 "こんな生活は本当は嫌だ"

 そう心の中で叫ぶ者も現れた。


 「変えたいと、心から願うものは、私についてきてください。何も無いところから、ゼロから始めましょう。大丈夫、私達にはこの神に与えられた、この力があります。」


 「世界の支配者達は、私達を見捨てました。しかし、決して私は、神は見捨てません。共にいきましょう。」


 「まずはじめに、このスラムの支配者を下しましょう。ファミリーを吸収します。クダルさん、案内をお願いします。」


 

 

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