スラム編

第2話

 ここは王都からかなり離れた辺境の街ルクス。この街含む一帯を治めているのは、エンジョウ男爵家である。辺境ではあるが、それなりに栄えており、人口は10000人ほどが暮らしている。

 

 そして、この街にもスラムが存在した。


 「兄貴!今日はパンが手に入ったっす!」


 そう言って小柄な青髪の少女は、兄貴と呼ぶ黒髪の青年に茶色く硬いパンを見せた。


 「そうですか、ちょうど良いですね。私は手に入れた野菜でスープを作りました。一緒に浸しながら食べましょう。」


 「相変わらず兄貴は凄いっす!何処から野菜手に入れてきたんすか!」


 2人は上下関係はありそうだが、仲の良さそうな雰囲気を醸し出している。しかし、どこにも空気の読めない奴はいるわけで。


 「お!良いもん食ってんじゃん!俺らにも寄越せよ!」


 そう声をかけて来たのは、巨漢の男だった。このスラムを牛耳るファミリーの幹部の1人、"怪力"のクダルだ、裏では筋肉達磨と呼ばれている。


 「クダルさんじゃないですか、お久しぶりです。良かったら鍋ごとお持ち下さい。パンもありますので、良ければどうぞ。」


 「流石エンド!話がわかるじゃねえか!」


そう言ってクダルは全ての食べ物を奪うように持って行った。


 「兄貴!もう我慢の限界っすよ!アイツらにやり返したいっす!特にあの筋肉達磨ムカつくっす!」


 ハンナは筋肉達磨が嫌いであった。それはそうだろう。せっかく集めた僅かな食べ物でさえ、持って行かれるのだから。


「ハンナ、落ち着いて下さい。この前教えましたけど、この世は弱肉強食、長い物には巻かれろです。勝ち目が出るまで、今は耐える時ですよ。」


 ハンナは納得いかなそうだ。


 「でも、兄貴本気出したらメッチャ強いじゃないっすか!あんな奴ら、筋肉達磨も一捻りっすよね!」


 エンドは落ち着いた声で話しかける。


 「良いですか、ハンナ。能ある鷹は爪を隠すです。仮に一時的にボコボコにしたとしましょう。そうすると報復が考えられますね。ここまで良いですか?」

 

 ハンナは真剣な顔で頷いている。


 「その場合、私ではなく、ハンナが標的になる可能性があるのです。ハンナは弱いので、ボッコボコにされてしまいます。ボッコボコです。私はそれが嫌なのです。だから、時が来るまで我慢してください。」


 ハンナは最初悲しそうな表情をしたが、すぐに目をキラキラさせた。


 「ワタシのせいっすか…でもわかったっす!ワタシが強くなれってことっすね!頑張るっす!」


 エンドは頷きながら答えた。ちょっと違うなとは思ったが。


 「そう…ですね。やり返そうと思えないくらいボコボコに出来るようになれば大丈夫です。」


 そんなやりとりをしていた時、エンドは急に意識を失った。そして倒れ込んだ。


 「兄貴?兄貴!大丈夫っすか!兄貴!兄貴!」


 時を同じくして、王都で処刑が行われていた。

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