人民の守護者〜力を得たので人々の為に使おうと思う〜

左脳

プロローグ

第1話

 多くの人が行き交っている王都アレクの広間だが、その日は、普段と違う景色が広がっていた。


 「これより、タテの一族の処刑を開始する。」


 盾の魔法の使い手であるタテ家の処刑が行われようとしていた。


 今、王国は経済、軍事ともに近隣の国より1歩リードしているが、最初からそうであった訳ではない。

 

 30年前、当時の王であったアレクサンド5世は、軍拡主義であった。


 「攻撃は最大の防御だからね。スタダ大事だから一気に行こう!」


 王の命令により、近隣諸国を次々に併合し、一時的に大陸一の領土を持つに至った。

 

 それがいけなかったのだろう。簡単に言えば、周り全てが敵になったのだ。


 「どうせみんな潰すんだから関係ないよ。みんな頑張ろう!」


 しかし、領土を一気に増やして収められるわけもなく、兵士は度重なる戦で疲弊し、国民は戦費捻出の為の重税で苦しみ、反体制派が組織されるまでに至った。


 貴族の中には保身の為に他国との連絡を密にする家もいたとか。


 そこでようやく王は気づいた。


 「ん〜これやばくね?」


 王は解決を試みたが、日に日に状況は悪化していった。そして誰もがもう無理だと諦めかけた時、当時男爵であった、タテ家が表舞台に現れた。


 タテ家の当主は、盾の魔法という少し変わった魔法の使い手であった。


 魔法は、限られた一族かつ、その中で1人だけが使え、使い手が死ぬと1番血の繋がりが濃い者に受け継がれると言われている。しかし、その力は絶大であった。


 貴族に名を連ねる家は、皆何かしらの魔法を使うことが出来る。通例として、魔法を受け継いだ者が当主となる事が多かった。


 タテ家現当主も、先代が亡くなった際に、魔法が発現した。盾の魔法は、簡単に言えば特殊能力を持った盾を作り出す魔法だ。そして、その魔法で出来た盾は、時間制限はあるものの、他者も使う事が出来た。


 つまり、タテ家当主が、様々な特殊な能力を持つ盾を作り、それを兵士が装備する事で、兵士の質が飛躍的に向上した。


 結果、内乱は瞬く間に鎮圧され、他国の包囲網も耐え切る事に成功した。そして、王は大層喜んだ。


 「マジでタテ家のおかげ、褒美として公爵にするわ。」


 こうして、シードル家は王の一言によって公爵となった。


 それから30年、アレクサンド5世が亡くなってから3年後の現在、タテ家は幼子含む血縁者全てが、十字の架に貼り付けられていた。


 「これより、タテの一族の処刑を開始する。罪状は、国家反逆罪。また、貴族であり、魔法の消失が必須の為、一族全てに適応される。」


 王の顔色を伺いながら大臣が読み上げる。その時、十字の架に貼り付けられた者の1人が声を上げた。


 「アレクサンド7世よ、本当にこれで良いのか?」


 王はこの催しの為だけに作られた豪華絢爛な椅子に座りながら答えた。


 「本来、罪人の言葉に返すものではないが…まぁ良い。最後だから答えてやろう。お前らは我の覇道に邪魔だ。我に歯向かうという事は、こういう事だ。」


 王は話続ける。


 「お前たちは勘違いしているが、国とは我のためにあるものだ。我が右と言ったら右、左と言ったら左だ。我が法であり、正義だ。それがわからない者達は、これからの時代に不要だ。」


 「そうか…あの王の孫がそんな考えになるんじゃな…お主が良いならわしらはそれで構わない。お前たち、巻き込んでしまってすまぬ。」


 「私たちは父上と共にあります。今までありがとうございました。共にいきましょう。」


 そして、数十人同時に処刑が執行された。その光景を見て、薄ら笑いを浮かべるもの、次は自分かと恐怖に震えるもの、怒りを堪えるもの、様々な反応が生まれていた。


 こうして、王国の守護神であったタテ家は滅亡した……かに思えた。本来回る事の無かった歴史の歯車が回り始めた。

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