第4話僕たちの青空に

 少年は幸せが溢れる家庭で産まれた。

 他人よりも多くのことが出来た。

 

 テストで良い点数を取ったり、テニスの大会で良い順位取ったり。

 そのたび両親に褒められ、また褒められる為に努力をする。

 少年は両親を愛していたし、両親は少年を心から愛していた。


 周りは素晴らしい人に囲まれ、良い友達にも恵まれた。


 満たされていた。


 しかし、そんな幸せな日々もずっと続きはしなかった。

 

 少年が、小学六年生の頃である。

 事故だった。

 両親は、飛び出してきた子供を避けようとして……。


 絶望に呑まれる。

 これまで感じたことのない感情が溢れる。

 これから先も幸せな日々が続くと信じていた。

 現実は理想通りにはならない。


 それから少年は誰とも好んで話しかけなくなっていた。

 自分の世界に閉じ籠る。

 気がつけば一人称ですら『僕』から『俺』に変化していた。

 他人を寄せ付けない雰囲気を纏う。

 他人を遠ざける為に。

 

 再び失う事が無いように。


 再び失ったらどうなるか分からなかったから。


 ――――――――――――


 冬が訪れた。

 結菜の件は転落事故として処分された。

 結菜はもういない。

 真白は、そんな現実が受け入れられていない。

 蓮達はその日から元気が無くなり、かまってくる事が無くなった。


 そんな中真白は、雪の下へ訪れていた。


「雪。俺はどうしても許せないんだ」

「ワン?」

「ふふっ。いい子だね雪」

「ワワン!」


 なんとなく褒められたのを感じた雪は誇らしげに鳴く。


「じゃあ、今日はもう帰るね。雪も風邪引かないようにね」

「ワフッ!」


 ――――――――――――


 家に帰り夕食を済ませたあと。

 真白は祖母にこれまでのことについて語りだす。

 祖母は真剣に話しを聞いている。

 話し終え、暫くの沈黙の後祖母が口を開く。


「頑張ったね真白。おばあちゃんは何があっても真白の味方だからね」


 祖母は涙ながらにそう言う。

 その言葉に真白は涙が溢れた。


 ――――――――――――


 次の日。

 真白は学校の屋上に訪れていた。

 今ならば止める者もいないのだろう。


 昨日祖母に話した理由は、ケジメをつける為だ。

 そしてここに訪れたこともそうだ。

 真白にとって結菜との大事な場所。

 

 ここで跳ぶことを何度も考えた。


 どうしたって自分を許せない。

 もっと早く行ければ助けられたのではないのか?

 先に行かせなければまだあの娘は生きていたのではないか?


 今でも脳裏に焼き付いている。

 あの光景が。

 あの娘の両親の顔が。

 ずっと離れない。


 しかし、結菜きっとそんな事は望んでいない。

 ならば結菜が残してくれたもので証明するだけだ。

 自分に託された生きる理由使命を。


 ――俺たちの正義を。


 ――――――――――――


 数ヶ月後。

 ある人気動画投稿サイトにて、暴露系等と言われる者たちが一斉に同じ事件を扱った動画をアップした。

 その動画は日本有数の大企業の御子息による卑劣な行為を暴露したものである。

 動画達は瞬く間に拡散され揉み消すことは不可能だろう。


「終わったよ結菜さん」


 真白は屋上で座り、今は亡きスマホの持ち主に声を掛ける。


「あとはこの証拠も追加で警察に提出するだけだ」


 結菜の残したスマホには崖から落ちるまで録画されていた。


「暴露系配信者には渡さなかったよ。証拠は他のだけでも十分だったし」


 目から涙が溢れる。


「もぉ、結菜さんが考えてくれてた作戦は隙が多すぎだよ。結局俺が考えちゃったよ。折角考えてくれたのにごめんね」


 笑う。

 あのときのように。


「いやー動画配信者はいいねー。証拠をあげたら皆んな動画にしてくれたよ。何でもっと早く思いつかなかったんだろう」


 真白は立ち上がった。

 心地の良い風が頬を撫でる。

 もうすぐ三年生である。


「さようなら結菜さん。今までどうもありがとう」


 憑き物が取れたような顔だ。

 あの空と同じ、爽やかな笑みを浮かべる。


「いい天気だ。俺達が……いや、僕達が好きな天気だ」


 空は少女が、否。二人が好きな青空であった。

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僕たちが好きな青空に 夜夜月 @YoYo_Zuki

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