第22話

 僕たちが教室に戻ると、浅野と竹内の二人はまだ、木島の机を取り囲んでいた。

「お待たせ」

 木島は爽やかに手を挙げる。

「作戦会議は終わった?」

 浅野はあざ笑うように聞く。

「そんなことしてないって」

 木島は首を振り、否定する。僕はそのやり取りを見ながら、竹内の様子をうかがった。彼女は、どこか不安そうに二人のやり取りを見守っている。

「竹内さんも、おまたせ!」

 木島が取ってつけたように竹内に話を振る。しかし、彼女はにこっと笑ってうなずくだけで、何も言わない。彼女は今の状況をどう思っているのだろうか?

「それで、木島君はウチらの事なんか思い出したの?」

「それが何も思い出せないんだ。それでぜひぜひ二人が知っていることを教えてほしいなあって思ってるんだけど」

「なるほどね。じゃあ、ウチから全部話すね」

「いや、俺は竹内さんからも話聞きたいなあって思ってるんだけど」

「ああ、じゃあそうしようか。まぁでも、ウチの話と一緒だと思うけどね」

 とんとん拍子で浅野と木島が話を進めていく。しかし、話を聞くと言った時、竹内は少し眉をひそめたのを僕は見逃さなかった。彼女はきっと何かを隠している。僕と木島、さらには宮崎さえも知らない何かを。

「じゃあ、話していくんだけど、ウチらって全員元二組だったじゃん? それで文化祭の時に仲良くなって、そのまま、ずっと一緒に居たんよ」

「ほうほう。竹内さん合ってる?」

「……うん、合ってる、と思う」

 竹内は肯定しているが、どこか自信がなさそうだ。まるで何かを忘れようとしているみたいだった。

「でもカッキーは違うんだよね?」

 僕は急に自分に話を振られて、驚いたが、

「うん、でも僕のは聞いた話だからね。そっちが本当かもしれない」

 と曖昧な返事をしておいた。

「じゃあ、次は思い出のエピソードを竹内さんから聞こうかな」

 木島は不自然だが、竹内から話を聞こうと頑張っている。

「私は、浅野ちゃんみたいにうまく話せないから、いいよ」

「……そっか、じゃあ、浅野さんよろしく」

 そう言われてしまってはさすがに諦めるしかない。しかしこの反応から、竹内の記憶と浅野の記憶は異なっている。おそらくは竹内の記憶には『コバ』が関係しているのだろう。

 僕は浅野が話しているのを横目に、竹内を睨んだ。

 

 浅野の話を分かりやすくまとめると、僕らは文化祭から仲良くなり、部活のない日にはみんなで遊びに行ったり、テスト期間では全員でテスト対策をしたりしていたそうだ。この話の信憑性を確かめるために、僕は一年の最後の期末テストの順位を聞いたが、「一位だったでしょ?」と当てられた。きっと浅野の記憶は真実だろう。

「なるほどなあ。いやまあ、何にも思い出せないんだけど、まあ、いいや。仲良くやろうぜ。大事なことは過去じゃなくて、これからどうするか、だし」

 木島は浅野の話を聞いてそんな感想を吐いた。きっと木島の言う通りだ。大事なのは未来なのだろう。

 しかし、本当はもう一人居たのだ。僕らの仲を取り持ったであろう張本人が。

 竹内は浅野の話を落ち着いて聞いていた。彼女は今、どんな気持ちでいるのだろうか『コバ』が居ないくなってしまったことを悲しんでいるだろうか。いやもしかしたら、宮崎と仲が良かった僕を憎んでいるのかもしれない。


 チャイムが鳴り、田中先生が朝のホームルールをし、一時間目の準備をする。

 いつもと変わらない、普通の朝。でも僕には違って見える。それは木島以外にも話しかけてくる人ができたから。

「今日の一限古典かあ、ダッル~」

 木島の席に振り向くと、木島の机に手を付いてスマホをいじっている浅野の姿があった。

「まあ、仕方ないね。二年生になって覚えることも増えてきたしね。まあ、でも俺は本当に困ったら柿崎に聞けばいいし」

「ずるくなーい?」

「いやいや、木島が僕に聞いてきたことなんて一回も無いよ」

 僕が木島の話を否定すると、浅野は僕を睨みながら「教科書を取ってくる」と言って、ロッカーに向かった。どうやらいつもと違う朝だと思ったのは勘違いだったようだ。

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