第21話
僕は家に帰って、唐揚げを揚げながら考えた。
記憶が戻ったのは、浅野と竹内、逆に宮崎は記憶を失った。僕と木島には変化無し。もちろん『コバ』が転校してくるなんてことも無かった。
それで今回一番得をしたのは? 記憶が戻った浅野と竹内? いや、罪悪感を無くした宮崎か? いや、もし宮崎が祈っていたなら、僕は人間不信になりかねない。となると、浅野か竹内か。浅野と話している感じから、彼女は祈っていなさそうだ。では竹内か? 竹内と『コバ』の関係性が確定しないから何とも言えないが。
唐揚げを鍋の中から一度取り出し、五分置く。いわゆる二度揚げだ。こうした方が唐揚げはおいしくできると最近学んだ。
とりあえず明日、竹内と話をしてみるしかない。
唐揚げを鍋に戻すとジュっと油が跳ねた。
次の日の朝、教室に着くと木島の机の近くで木島、浅野、そして竹内が話しているところだった。
「どうしたの?」
僕がカバンを置きながら、三人に声を掛ける。
「ああ、柿崎、いいところに。この二人が、一年生の時に俺らと仲良かったって言うんだ。なんか覚えてる?」
浅野はこちらを睨むように見ている。昨日のことをしらばっくれることは出来なそうだ。
「うーん。まあ、そんな時期もあったんじゃない?」
後手に回されてしまった。本当はこちらから竹内に話を振る予定だったのだが。
木島は僕のことを訝しむように見ている。僕は何も思い出していないし、きっと木島も何も覚えていない。僕の返答に疑問を持つのは正常の反応だろう。
「ねー!言ったでしょ。ウチら仲良かったんだよ?」
浅野が追いうちをかける。
竹内は何も喋らない。むしろボロを出さないようにしているみたいだった。そのメガネの中にある瞳には何が映っているのだろうか。僕たちとの思い出か、それとも僕らへの憎悪か。どちらにしろ今は分が悪い。
「ごめん。登校中ずっとお腹痛くて……トイレ行ってくるね」
そう言って僕は机を離れようとした。すると木島も「俺も行く」と言って僕の後ろをついてきた。計画通りだ。
「そうやって、聞かれたくないことを聞かれるとトイレに逃げる癖は変わってないんだね」
後ろから浅野にそう釘を刺された。どうやら『コバ』が居た世界線で僕らの仲が良かったことは嘘ではないらしい。
「ちょっとよくわからないけど、とりあえず後でね」
僕はそう言って教室を飛び出す。
「どうゆうことだよ⁉ 俺がおかしいのか?」
トイレに入るや否や、木島は大きな声で僕に聞いてきた。僕は人差し指を口に着けながら「教室に聞こえる」と注意する。幸いにもトイレの中に人はおらず、騒ぎになったり、迷惑を掛けたりはしなさそうだ。
「……すまん。一から百まで説明してくれ」
「わかりやすく言えば、僕、木島、竹内、浅野は友達同士だったらしい。でも本当はもう一人共通の友達がいたんだ。そいつは『コバ』って言うんだけど、『コバ』はホワイトフラワーの影響でこの世から存在を消されたんだ。その弊害で僕らは仲が良かった頃の記憶がなくなったはずだった。でもなぜか、竹内と浅野だけ思い出してる」
「ホワイトフラワーってあの願い叶えるってやつか?」
「ああそうだ。何か知ってるか?」
「なんでも願いを叶えるって都市伝説を知ってるくらいだ。それで、柿崎はなんか覚えてんのか?」
「いや僕も何も覚えてない。今の話は『コバ』の存在を消すことをホワイトフラワーに祈った奴から聞いた話だ」
「じゃあ、思い出したのはあいつら二人だけってことか」
冷静になった木島は理解が速くて助かる。一度整理の時間として僕は十秒ほど待つ。
「……なるほど。大体わかった。それで俺はこれからどうすればいい?」
木島は僕の指示を待っている。僕は一度深呼吸をしてから話し始まる。
「多分、竹内がホワイトフラワーに祈ってる。でも具体的にどんなことを祈ったのかわからない。だから、次はそれを聞き出したい。過去の出来事の話は、木島の好きなようにして。覚えてないというのも良し、覚えていると嘘をつくのも良し」
「なるほどな。わかった」
そして僕たちは教室に戻った。
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