第20話

 六限目が終わり、ホールムールが終わると、僕は浅野を眺めていた。

 ポニーテールに少し着崩した制服。スカートは短く、いかにもギャルと言う感じの女の子。そんな子と共通の友人が居たなんて、正確には彼氏と友人だが、とても信じられない。

「そんなに眺めてどうしたんだ?」

 僕の後ろから木島が話し掛けてくる。

「いや、その、浅野さんってどんな人?」

「好きなん?」

「全然そんなのじゃないんだけど」

「浅野は無理だと思うぞ」

「だから違うって」

「まあ、見た目は少しギャルだけど、中身はしっかりしてるし、意外と柿崎と相性いいかもな」

「しつこいなあ」

 僕が木島に視線を向けると、木島はバックを持ち上げて部活に向かうとしていた。

「部活か。頑張ってね」

「ああ、まあ、そうだな。じゃあ」

 そう言って木島は教室を出て行った。

「ねえ、カッキー」

 カッキー……僕をそう呼ぶのは一人しかいない。ああ、ただの間違いだったのだと、僕は安心して振り向いた。しかし、僕の前に立っていたのは宮崎ではなかった。

「浅野」

「その様子だと、何か思い出したみたいだね」

 僕は悩んだ。正確には思い出したわけではないのだ。宮崎から話を聞いただけ。しかし、浅野が宮崎の記憶を消したならば、僕が記憶を思い出していると勘違いしていた方が話を聞きやすいかもしれない。

「ああ、全部思い出した」

「じゃあさ、昔みたいに仲良くやろうよ」

「まあ、そうだね。それでどうして宮崎の記憶を消したの?」

「……? 誰の話?」

 浅野はキョトンとした表情を浮かべた。

「一年二組の宮崎優子さん。コバと仲良かったさ」

「……コバって誰?」

 彼女は見たことがない動物を見るような目をしていた。

「待って待って、カッキーとウチ話嚙み合って無くない?」

「そうだね。ちょっと記憶にズレがあるのかもしれない」

 入学式の日、宮崎は『コバ』に話しかけないで帰ったと言っていたから、宮崎のことは知らなくてもおかしくはない。しかし、『コバ』のことを知らないのは妙だ。

「ウチの中では、木島君とカッキーとウチと遥が一年の頃、仲良かったのを忘れてて、今日、急に思い出したんだけど、なんか自信なくて。でも今日の昼の終わり、カッキー、ウチのことめっちゃ見てたじゃん? 木島君は普通だったけど。だからなんか知ってそうだなって思って」

 やっぱりだ。僕の知ってる話とは違う。

 竹内遥は、いつも浅野と一緒にたむろしている女の子。浅野とは対極にいるような子で、このクラスの委員長も務めるほど真面目な生徒。

「竹内さんはなんだって?」

「遥は、普通だったよ。でも聞いたら遥も今日、思い出したって言ってた」

 どうもおかしい。僕は本当は思い出してないし、木島も浅野のことは何も知らないような感じだった。きっと、本当に思い出したのは浅野だけ。

「浅野さん、僕はさっき嘘をついた」

 僕は浅野に土曜日からの出来事をすべて話した。


「ウチはコバ君の事知らないけど、木島君推しなんだよね」

 僕が事情を説明しきった後、浅野の口から出てきたのは推しの話だった。

「それで、浅野さんはホワイトフラワーに祈ったの?」

「ううん。ウチそんな花見た記憶ないよ」

 彼女はポニーテールを揺らしながら首を振る。

「となると、ホワイトフラワーに祈ったのは、一人だ」

「……遥ってこと?」

 僕はゆっくりとうなずく。でもどうして、僕と木島は思い出せなかったのだろうか?

「竹内さんは今日はもう帰った?」

「うん。今日は塾があるって、すぐ出て行ったよ。まあもう5時だしね」

 浅野はバックからたくさんのステッカーとキーホルダーがついたスマホを取り出し、

「電話してみる?」

 と聞いてくる。

 僕は「いや、大丈夫」と言って、浅野を止める。まだわからない部分が多すぎる。今電話すると竹内に警戒されると思った。少なくとも宮崎は祈ったことに罪悪感を覚えていたから、竹内が祈ったことを隠す可能性だってある。少し考える時間が欲しい。

「その、ウチには花がどうとかは分かんないけど、まあ、うちらが仲良かったことは事実なんでしょ? そんでよくない?」

 浅野が言った事はもっともだ。僕も何も知らなかったらそれでいいと思っていたはずだ。しかし、今はそう思わない。宮崎の涙をみたから。宮崎は彼女だった人に謝りたいと言っていた。しかし、美也子は『コバ』の彼女ではないかもしれない。そうなると、遥が『コバ』と恋仲だった可能性もありうる。しかし、どれが真実か確定しない。僕はホワイトフラワーを憎んだ。

「……それじゃ、だめなんだ。人の気持ちをこんなに弄んでいいわけが無い」

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