第19話

 僕たちは写真と画鋲を置き、いつもの席に座った。

 状況を整理しよう。僕と佐藤は土曜日に宮崎と共に『コバ』の家があった空き地を見に行った。このときの宮崎はホワイトフラワーに祈ったことを後悔している様子だった。僕はそれがホワイトフラワーの持ってきた不幸だと思っていた。

「ホワイトフラワーって不幸を幸福にして、誰かに不幸を運ぶんだよね?」

「ええ、噂話によればそうですけど……」

「それって運ばれた不幸が自分に来ることはあるの?」

「うーん、どうでしょうね。私もはっきりは分かりませんが、今回の場合、他に祈った人が居るので、宮崎さんの不幸はホワイトフラワーが運んできたものではないと思います」

 と言うことは、宮崎は自分で罪悪感に苦しんだのか。しかし、ここで一つ疑問が生まれた。僕たちは二人とも日曜日の記憶がある。なぜ、宮崎の記憶だけ無くなったのか?

「佐藤は、なんで宮崎の記憶だけ無くなったと思う?」

「どうゆうことですか?」

「いや、僕たちは二人とも日曜日の記憶があるじゃん。でも、宮崎は無いんでしょ?」

「ああ、なるほど。これは仮説ですけど」

 佐藤は自分のバックから、ルーズリーフとシャーペンを取り出した。

「きっと今回失われたのが、「コバの記憶」だからだと思います。私たちはいわば、「コバと言う人物がいた」という話を聞いただけ、だからだと思います。この話は神話と同じように、実話であったとしても、嘘なのか本当なのかは確定しませんからね」

「……なるほど。つまり、今回消えたのはコバの記憶だけで、僕たちのは『宮崎のお話』と判定されて効果が無かったってことか」

「そうゆうことです。後もう一つ仮説があって」

 佐藤は取り出したルーズリーフに祈った人と書き、その周りに友人A、友人B、友人Cと書いた。

「ホワイトフラワーの効果は循環している可能性があります。祈った人の代償の不幸が友人Aにいった場合、友人Aは次にホワイトフラワーを見ることが多いです」

 佐藤は祈った人から線を友人Aに矢印を伸ばし、その矢印の上に「不幸」と書いて〇で囲む。

「そして、その次は友人Aの分を友人Bが、友人Bの分を友人Cが、そうしてホワイトフラワーは回っているかもしれません。しかし、同じ人がホワイトフラワーを二回見れるかは不明です」

 ルーズリーフにはどんどん矢印が増えていく。

「宮崎さんは土曜日、謝りたい人が居ると言っていましたよね?」

「言ってたよ。浅野美也子に謝りたいって言ってた。ああ、そうゆうことか」

 佐藤も同じことに気が付いていたようだ。ホワイトフラワーに祈ったのは、浅野美也子だということに。

「明日の放課後、浅野さんに話を聞きに行きましょう。先輩はアポを取っておいてください」

「本当に?」

 佐藤は優しそうに微笑むだけだった。


 昼休みが終わり、僕たちはカギを返して教室に戻った。

 僕の隣の席には、浅野と女子生徒が二人でたむろしている。どうしたものだろうか。佐藤は僕にアポを取っておくように言っていたが、どう言えばいいだろう。もしも僕らの勘違いで浅野が何も知らなかったら? もしも祈った人物が他の人だったら? 考えれば考えるほど、声が出せなくなる。

 僕が迷っている間に、浅野は席に帰ってしまって、隣には誰もいなくなった。浅野が席に帰って、安心している僕が居る。僕は何とも言えない虚無感と少しの安堵に襲われた。

 こんな時、木島だったらどうするだろうか。佐藤だったらどうするだろうか。

 そんなことを考えていたら、いつの間にか、国語の授業が始まっていた。

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