第14話

 宮崎が落ち着いた後、僕たちは解散することになった。

「宮崎さん、今日は思い出したくないことを思い出させてしまいました。本当に申し訳ないです」

 佐藤は教室を出る前に宮崎に頭を下げた。その横で僕も一緒に頭を下げる。

「いいの。これは私の業だから」

 宮崎はどこか遠くを見る様な目をしていた。

「では今日はこれで帰ります。また明日」

 佐藤は事務的な声色を最後まで崩さずに、教室を出て行った、宮崎も一礼して手を振る。僕も佐藤の後を追って教室を出ようとした。その時、

「カッ、柿崎先輩は、何も覚えてないんですか?」

 と願うように宮崎に聞かれた。

「ごめん」

 僕はもう一度頭を下げ、教室を後にした。

 教室を出ると佐藤が待っていた。

「先輩、駅までご一緒していいですか?」

 僕はうなずいた。佐藤は僕の隣を歩き出した。

「佐藤ってさ、クラスに友達いないでしょ」

「……先輩は、友達だと思ってた人から弾かれたことありますか?」

 佐藤は廊下の一番奥から視線を外さずに聞いた。

「うーん。僕はあんまり人と関わることがないからなあ」

 そうならないように他人から距離を置いている、とは言えなかった。

「そうですよね。私はその経験あるんです。その時から人との関りは最小限でいいかなって思って」

 佐藤の声色はいつものに戻っていたが、言葉の一つ一つに重さがあった。その言葉を聞いて、福島先生の泣いているところが蘇ってきた。きっと僕と同じだ。

「そうか。まあ、佐藤の人生だし、何でもいいけど、大事にしてくれる人は大事にした方がいいよ」

「ええ。そう思ってるから先輩のことは大切にしているんですけど」

「……そっか」

 僕の返事はそれが限界だった。

「今日僕を呼んだのは、宮崎さんの反応を見るため?」

「やっぱり気付いてましたか」

 佐藤は悪びれもせず認めた。

「その通りです。私が今日先輩を呼んだのは、宮崎さんの言っていることが嘘かどうかを確かめるためです」

 佐藤は淡々と企んでいた計画を話し出す。

「先輩と会った時の反応、それから最後の反応、それらを見て彼女の言っていることは全て本当だと確信しました。宮崎さんはホワイトフラワーに祈る前までは先輩と面識があったそうです。きっと先輩は『コバ』さんとも面識があったんだと思います」

「それで、僕に何か聞きたいことがあるから僕を待っていたんだよね」

「話が早くて助かります。先輩は『コバ』と言う単語に聞き覚えはありますせんか?」

「宮崎にも聞かれたけど、無いよ」

「じゃあ、先輩の最寄り駅で小林さんとか『コバ』に関係する名前の人は居ないでしょうか?」

「うーん、小林さんって家が近くにあるけど、確か老夫婦が住んでたような気がするんだよね」

「そうですか。まあ、高校から知り合いになったという可能性もありますからね」

 どこかに置き忘れたものを探すように記憶をさかのぼる。しかし、記憶のどこにも『コバ』という単語は無い。何より、今の生活に違和感がない。僕は二年生になるまで木島とずっと一緒に過ごしてきた。その記憶が僕の中の事実だ。

 そう思った時、佐藤が笑顔で僕の方を見て言った。

「仕方ないですね。先輩、明日は土曜日です。なので部活の一環として、先輩の最寄り駅を散策します!」

 僕は苦笑い浮かべることしかできなかった。

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