第11話
ピッピッピー
試合終了の笛が鳴る。
息の切れた一年生の選手は倒れている。二・三年生の選手も膝に手をついて肩で息をしている。シャキッとしているのは林と前田ぐらいのものだった。後半戦は熱気の入った激しいゲームだった。しかし一年生の変幻自在な攻めを二・三年生がすべて受けきった。さらに終了間際に前田が一点を追加し、試合は4対2で、二・三年生チームの勝利で幕を閉じた。
「整列!」
監督からの指示で皆体を起こし、整列して一礼。それから一年生チームと二・三年生チームがハイタッチしながらお互いを称え合う。
試合が終わったら僕と佐藤はサッカー部の顧問にお礼と挨拶をして、荷物をもって写真部の部室に行った。
「なかなか熱い試合でしたね」
部室に着いて、いつもの席に座っても佐藤は興奮が冷めない様子だった。これから僕たちはお互いに自身の撮った写真の中から25枚の写真を選び、印刷することになっている。
「そうだね。特に後半戦からね」
「小原君たち最初いい感じでしたしね」
同じクラスということもあり、さすがに気にしていたらしい。
「一点目すごかったね」
「はい!でもキャプテンと林さんが出てからはなかなか難しそうでしたけどね」
確かにあの二人は別格だった。
「じゃあ、そろそろ写真を選ぼうか」
「そうですね。とりあえず自分がいいと思ったものを25枚で」
僕は今日撮った写真を振り返ってみる。一番最初に出てきた写真は誰もいないグラウンド。まだ確認していなかったが良く撮れていた。特に風によって芝が靡いているのがはっきりとわかる。これは印刷することにする。それに加えて、木島のドリブル、小原の一点目を入れた。それからはどれを印刷するか悩んだが、結局後半戦で撮影した曲を20枚ぐらい入れておいた。前半戦のものより被写体に躍動感がある気がしたから。
「じゃあ、印刷始めますねー」
佐藤は僕が選び終えるとすぐにプリンターとカメラをつなげて印刷を始めた。佐藤はどこかのタイミングで選んであったようだ。
プリンターがなかなかの音を出しながら、写真を吐いていく。まずは佐藤が撮った写真から印刷したようだ。
25枚の印刷は想像していたよりもすぐに終わった。僕は排出された写真を手に取り、僕のカメラとプリンターをつなげる。佐藤の撮影した写真は一年生よりも二・三年生が映ったものの方が多くあった。その中に一枚。僕の顔が映っているものがあった。試合の休憩時間に撮影されたものだと思う。僕は少し恥ずかしくなって、その写真を佐藤に見せた。
「これは?」
「あれ、見ちゃったんですかぁ? 困ったな~」
悪がる様子もなく、むしろ開き直ったように佐藤は笑顔を浮かべた。僕がため息をつくと、佐藤は僕の手から写真を奪って部室のコルクボードにくっ付けた。
「まあ、でもいいじゃないですか。私たちしか見ないんですし」
「いや、僕はフリー素材じゃないだよ?」
「当たり前です。先輩の写真を撮っていいのは私だけですから」
「いや、そういうことでもないんだけどな」
そんな話をしている内に僕が撮影した写真の印刷が終わった。
僕はまた、プリンターから排出された写真を取った。そしてすべての写真を机に並べる。僕の方はどれも同じような写真ばっかりだ。それに比べて佐藤の撮影したものはいろいろな場面のものが撮られていた。ボールを持っていない人や、ベンチで応援する人まで。試合しか見ておらず、ボールがあるところばかりにフォーカスしてしまった僕は、視野の狭さを実感した。
「佐藤はすごいね。僕には気が付かないことばっかりだよ」
「いやいやこんなのは慣れですよ。動いている物をしっかりとるのは大変なので」
僕は机の上にある写真をもう一度見直す。きっとこれらの写真からも盗める技術があるはずだ。そう思って自分の撮った写真と佐藤の撮った写真を見比べる。佐藤はそんな僕の姿を見て
「まあ、いろいろ課題はありますけど、カメラをもって二日目ですからね。撮り続けていくことが重要だと思いますよ」
と僕を励ました。
「では、評論会はこの辺にして」
佐藤は何も入っていないクリアファイルを取り出し、テープを貼って、『サッカー部紅白戦』という文字と今日の日付を大きく書いて、印刷した写真を入れる。
「このクリアファイルをサッカー部の部員さんに渡してもらえますか?」
「僕じゃなきゃダメ?」
「私のクラスのサッカー部って小原君ですよ?」
「……そっか。じゃあ僕が渡しておくよ」
「ではよろしくお願いします。もう7時ですし、今日はこれで解散しましょうか」
僕たちは荷物をもって部室を後にし、鍵を職員室に返した。それから校門をでて、並木道を歩く。
「気が向いたらでもいいので、写真は絶対届けてくださいね!」
「わかったって」
「絶対ですよ?」
佐藤は駅に着くまで、サッカー部に写真を届けることを強調していた。
駅に着くと、佐藤は反対方面の電車に乗るそうなので、改札を通って別れることなった。
「じゃあ、また明日の昼休み」
「はい!ではまた明日!」
佐藤は手を振りながら、笑顔で僕から離れていく。僕は佐藤が見えなくなるまでは駅のホームに入らなかった。
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