第12話

 次の日の朝、学校に来たら一番に木島に話しかけた。まだ相沢と上野は来ておらず、木島は自身の席に座っていた。

「おはよう。コレ」

 カバンの中からクリアファイルを取り出し、手渡す。

「おお。これは……昨日の写真か」

「うん。いいやつだけ厳選したから」

「中身みていいやつ?」

「いいよ」

 木島はクリアファイルから昨日の写真を取り出し、半分ほど机に置き、一枚ずつ順番に見ていった。

「俺のもあるんだね」

 苦笑いを浮かべながら木島が見せてきたのは僕が撮ったドリブルの写真。写真の中の木島は真剣な表情をしている。

「それは僕が撮ったんだ」

「そうなのか。上手く撮ってもらえてうれしいよ」

 木島は手に持っていた写真の束を机のものと交換して、また丁寧に一枚ずつ鑑賞していく。

「なあ、柿崎」

 木島は顔を写真から目を背けないまま、僕に呼びかける。

「今回の試合は、前田先輩と林先輩出る予定じゃなかったんだ。最初の予定では俺と相沢、上野が主体で行く予定だったんだ。でも、知っての通り俺らはあんまり一年生たちと差がなかっただろ。それは試合が始まる前からわかってて、昼休みとか集まって作戦立てたりしたんだけど、実践ではうまくいかなかったよな……」

 木島は写真を見ながら、試合の前からの自分の行動を振りかっているような感じだった。

「まあ、いろいろあったけど、言いたいことはさ」

 ここで写真から目線を外し、僕を見据える。

「いろいろ世話をかけた。すまなかった。写真部のあの子がどうとか、木島がどうとかはなんも思ってないから、柿崎がよければ、これからも仲良くしてほしい」

 僕は恥ずかしくなって、木島から目線をそらした。

「まあ、考えとく」

 言ってから視線を戻し、二人で笑った。

 この距離感が僕と木島の二人の、日常の距離感だ。

 

 昼休みになると、僕は部室に向かった。

 木島が「一緒に食べないか?」と誘ってきたが、僕は先約があると言って断った。しかし、僕が部室、美術室の隣に居ることは伝えておいた。

 鍵は佐藤が持って行っただろうと思い、職員室には寄らなかった。

 部室のドアに手をかけ、力を込めると予想通り鍵はかかっていなかった。僕から見て左側の椅子に佐藤が腰を掛けていた。

「お疲れ様です。ちゃんと写真渡しました?」

「うん。しっかり渡してきたよ」

「それはよかったです」

 机の上には袋に入ったままのお弁当が置いてある。

 なぜ広げていないのか、と僕は怪訝そうな顔をしながら佐藤の前の椅子に座った。

「実は今日、面白い話を聞きまして、お弁当を食べる前に少しいいですか?」

 僕はすぐにうなずいた。

「今日の朝、私のクラスの人がホワイトフラワーを見たって話していたんです」

 ホワイトフラワー? あの願いが叶うって花のことか。確か佐藤はホワイトフラワーをカメラに収めたいって話していたな。

「その話、詳しく聞いたの?」

「はい。でも妙に信憑性が低いというか、嘘っぽくて私のクラスの人は全然信じてないんです」

「佐藤はどう思ってんの?」

「私は……」

 佐藤は一度悩んでから、確信したような様子で言った。

「本当だと思っています。でもいまいち微妙なんで、先輩を連れて話を聞きに行こうかなって」

 僕は眉をひそめた。佐藤のクラスメートなら、僕が居なくても佐藤が話を聞くことはできるはずだ。

「なんで俺を?」

 僕は素直にそう聞いた。佐藤は困りながら困った様子で口を開いた。

「その生徒の願い事が『二年二組の一人の生徒を、存在しなかったことする』だったからです」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る