第8話
チャイムがなり、昨日と同じように二人で鍵を返す。
「じゃあ、また放課後に」
「うん。それじゃ」
佐藤の教室の前で別れ、自分の教室へ向かう。
教室には、まだ先生は来ておらず、ざわざわした雰囲気が残っていた。その雰囲気をあえて無視しながら自分の席に座る。
「ねえねえ、『未来の掲示板』見た?」
「『未来の掲示板』って何?」
「ええ、ミヤコ知らないの? この学校の掲示板サイトなんだけど。未来予知が書かれているらしくて、そこの書かれたとこは絶対起こるって噂だよ」
「それでね、『未来の掲示板』によるとね、今日、サッカー部紅白戦らしいよ」
「ええ、木島くん出るかな? 出るなら見に行こうかな」
「あんたの部活はどうすんのよ?」
「うぅ、まぁサボる」
隣の席にたむろしていた2人組の女子の会話が聞こえてしまった。
……未来の掲示板?
僕はすぐにスマホを取り出し、未来の掲示板と思われるサイトにアクセスした。そこには今日の16時30分から、「サッカー部紅白戦」と書かれている。ここから先の未来の事には、三年六組の担任の結婚の話や、一年二組に転校生が来ることなどが書かれていた。「サッカー部紅白戦」についての最初の投稿は今日の昼、12時25分と書かれている。
どうやら、サッカー部の紅白戦のことは『未来の掲示板』を見た全員が知っていて、一大イベントとなりつつあるようだ。佐藤もこの投稿を見て知ったのだろうか?
その話題の渦中にいるであろう木島は、いつものグループで楽しそうに談笑していた。
放課後は言われた通り、グラウンドに行った。
「あ、先輩」
僕がグラウンドに着いた時には佐藤はもうカメラを構えていた。
「何を撮ってるの?」
「今は、グラウンドに出てくるサッカー部の部員を撮ろうと思って、待っているところです」
「そうなんだ」
僕たちは二人とも制服のままでグラウンドに来たが、サッカー部は部活用の服に着替えているようだ。僕はあたりを見回して、被写体がないか探した。今日サッカー部以外の部活は、他の練習場所を使って練習しているらしい。誰もいないグラウンドは太陽に照らされて、緑が輝いていた。あまり見ない景色だった。僕はグラウンドを撮るために佐藤とは反対方向へカメラを向ける。風が吹く。芝が靡く。ここだ!シャッターを勢いよく切る。どんなのが撮れただろうか。確認しようとしたら佐藤に肩を叩かれた。
「サッカー部の顧問の先生が来ました。挨拶しに行きましょう」
僕は佐藤の後ろについていき、サッカー部の顧問のところへ行った。サッカー部の顧問には見覚えがあった。あれは僕のクラスの数学の先生だ。
「今日はよろしくお願いします」
そう言って頭を下げる佐藤をまねて、僕も頭を下げる。
「うん。よろしく。邪魔にならなければどこで撮ってもいいからね。ああ、でもボールが当たってカメラが壊れたりしても責任はとれないからね。注意してね」
サッカー部の顧問の先生が淡々とした口調で説明する。佐藤は笑顔で対応しているがどこかひきつっている。どうしたのだろうか?
「わかりました。では失礼します」
佐藤はもう一度頭を下げて、どこかに歩き出してしまう。僕は慌てて数学の先生にお辞儀し、彼女の後を追う。
「……ふう。緊張した~」
佐藤は大きく、ゆっくりと息を吐き、肩の力を抜いた。
「え? どうゆうこと?」
僕は状況がわからなかった。なぜ、そんなに緊張していたのだろうか? 僕の顔を見た佐藤は困ったように言った。
「あの先生は体育会系過ぎて、挨拶しないと怒られるんですよ」
面倒くさそうに佐藤は肩をすくめた。授業では、体育会系イメージは無かったので少し驚いた。しかしサッカー部の顧問と聞くと、体育会系なのも納得がいく。
「そうなんだ。全然知らなかった」
僕たちがそんな会話をしていると、いつの間にかサッカー部の生徒がグラウンドに出てきていた。ランニングが始まるようで、グラウンドには人の塊が出来ていた。
「4時半試合開始で、それまでに各自アップ!」
「はい!」
監督の指示に塊が大きな返事を返す。ランニングだけは全員で行うらしく、二列で号令をかけながら走り出した。各自アップとは一体何なのだろうか、と思いながら僕はアップを見つめていた。
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