第6話
――キーンコーンカーンコーンーー
「もうそんな時間ですか」
佐藤がカメラの基本的な機能を教え終わったら、ちょうど昼休みの終了を告げるチャイムがなった。
僕たちは各々、自分の荷物を持って、部室を出た。僕は片手に弁当袋、片手にカメラを持っていたため、佐藤がカギを閉める。
「カギは私が返しておきます」
佐藤はカギをポケットに入れ、職員室の方に歩き出す。
僕は教室に戻るのが怖かった。
教室に戻ってしまったら、また、1人かもしれない。このまま、昼休みが終わらなければいい。そう思った。でも時間は止まらなし、佐藤との関係もきっといつか終わる。わかっている。ただ、今だけはどうか、わがままを言わせてほしい。
「一緒に行くよ」
僕はそう言って、佐藤の隣へ歩き出す。佐藤は「わかりました」と言って微笑んだ。
「先輩は、次の授業なんですか?」
「ええと、次は数学だったかな。そっちは?」
「私は次は、古典です。でも苦手なんですよね。古典って、覚えること多いじゃないですか」
「確かに多いね。でも一年生のうちに覚えるところ覚えたら、後々楽だよ」
「ええ、でもなんか動詞とか、助動詞とか、いっぱいあるじゃないですか。なんか頭こんがらがってきちゃって……」
「まあ、そうゆうもんだから仕方ないね。覚えるしかないよ」
「あ、そういえば先輩って、頭いいから写真部に選ばれたんでしたよね? テスト前になったら、勉強教えてくださいよ」
「……自分の勉強に余裕があったらね」
「やった!」
「いや自分の勉強に余裕があったらね?」
「先輩なら大丈夫です。ちなみになんですけど、先輩、一年生の頃何位ぐらいだったんですか?」
「期末は全部一位だったよ。中間はテストだけで採点されるから、二学期だけ二位だったかな」
「え?」
佐藤が足を止める。
振り返って佐藤を見ると彼女は初めて出会った動物を見るような目でこちらを見ていた。
「そうだったんですか?」
「いやでも、やることがないから勉強してただけだよ。本当に」
クラスメートが部活をやっている時間を勉強に充てただけなのだ。あとは家事が終わった後に少し。本当にそれしかややっていない。でも部活を本気で行っているような生徒はその競技において、学校で一番上手になるので当たり前なのかもしれない。
「いや、それでも十分すごいですよ……」
呆れたように佐藤が言う。僕はこれ以上何かを言っても、佐藤には聞き入れてもらえないと思ったので、
「まあ、佐藤がちゃんと、写真のこと教えてくれたら、勉強教えてあげる」
と言って、話題を切った。
佐藤は「それなら任せてください」と意気込んで、僕の隣に戻ってきた。
職員室にカギを返し、佐藤を教室まで送った後、自分の教室に戻った。教室にはもう数学の先生が来ていて、僕は少し焦りながら、机に座った。
「なあ、さっき教室にきたあの女の子が、写真部の後輩か?」
後ろから木島が聞いてくる。僕はドキッとした。何か大事なものを掴まれたような、そんな感覚があった。
「ああ、そうだ」
「昼休みは会えたか?」
「ああ、会えたよ」
「そうか、僕は柿崎の居場所がわかんなかったけど、彼女はわかったのか」
僕は、言いたいことが見えない木島に対して、ストレスを溜めた。そのストレスをぶつけるように、勢いよく振り返る。すると木島はまるでどこか遠くを見つめるように、僕を見つめていた。
「いや、部室にいたから、彼女が気づいただけだ。別にそこに深い意味はない」
そう言うと木島の目はいつも通りに戻り、苦笑いを浮かべた。
僕はなにか変なことをしただろうか? 木島が先に僕から離れていった。僕はその邪魔をしないように、木島から距離を取った。それのどこが問題だったのか。僕にはわからなかった。
――キーンコーンカーンコーン――
僕の思考を遮るようにチャイムが鳴り、一部の生徒が慌てながら席に座る。
「じゃあ授業はじめるぞー」
僕はその先生の言葉で、黒板に体を向け直した。
数学の授業の内容は、全然頭に入ってこなかった。
授業が終わって、ホームルームが始まる前、木島はもう一度、僕に声をかけてきた。
「今日は部活か?」
「いいや。部活は火曜、木曜、土曜だけだ」
「……そうか」
木島は、僕からすぐに視線を切った。僕もそれに倣うように前を向いた。
「ホームルームやるぞー」
するとすぐに田中先生が教室に入ってきた。そして、いつもの一度席に座る儀式が行われ、クラスメートは部活に行ったり帰ったり、思い思いの場所に散らばった。僕もバックを持って教室を出る。木島は僕よりも早く教室を出ていった。
僕は帰る途中いろんなものを写真に撮ってみることにした。学校から駅までの並木道。駅の電線がかかった青空。ホームに入ってくる電車。家の最寄駅から見える夕焼け。学校から僕の家までは30分ぐらい。しかし今日はいろいろなものを撮っていたから50分も掛かっってしまった。
家についたら、撮影した写真を印刷した。少しぼやけているところもあるが、どれも綺麗に写っていた。しかし、あの時見た富士山とは、何かが大きく異なる。あんな写真を撮るにはどうすればいいのだろうか。どうすれば人の心を打つような、感動的な写真を撮ることができるだろうか。そのことばかりを考えながら家事をこなした。この写真を持って、明日の部活で佐藤に相談してみよう。そう思うと明日の部活が楽しみになった。
家事が全て終わった頃、僕はお弁当の話を思い出した。明日から僕は、本気でお弁当作りに取り組まなければならない。そのためには、今日から準備しておくことが重要になる。今日詰めれるものは弁当に詰めて、冷蔵庫へ。明日の朝詰めるもののスペースも確保しつつ、明日の構成を考える。ここで明日は一番自信のあるメニュー、一口サイズハンバーグを作ることに決めた。
「明日、卵焼きと一口サイズハンバーグを入れて完成」
今日の夕飯で残ったひき肉をラップに包んで丸めて、冷蔵庫へ。あしたは朝から忙しくなりそうだ。ここから勉強を少しして、睡眠に入った。
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