第3話

 僕が小学生の頃だった。

 その日はとても強い台風が来ていて、外には誰も出たがらなかった。こんな日に外に出たら危ないのは考えればわかること。僕は子どもながらにその恐怖を感じ取っていて、一日中家に居た。台風で両親も仕事が休みになったから家の中で本を読み聞かせしてもらったり、三人でゲームしたりして遊んだ。

 台風が去った次の日、僕のクラスメートが三人帰らぬ人になった。その三人がどのようにして死んだのかは明かされなかった。しかし、その三人の親は、学校に来て「お前のところが誘ったから」「そっちの子が言い出したんだ」とか言い争いながら泣いていた。その三人はお世辞にも真面目ないい子とは言えなくて、担任の福島先生がいつも手を焼いていた。福島先生は若くて美人の先生で校内でも人気があった。でも怒るとその見た目からは想像できないほど怖かった。クラスメートだった三人は台風の前日も女の子を泣かせてしまって福島先生に怒られたばかりだった。しかし福島先生は彼らの悲報を聞いて一番泣いていた。言い争っていた三人の親が黙ってしまうほど、先生は号泣していた。その時から、僕はできるだけ人に迷惑をかけずに生きていこうと思った。三人の関係性がどうだったかは知らないけど、人と関わればきっとトラブルに巻き込まれてしまう。いなくなった時に悲しみを感じてしまう。そうならないためには人と関わらないことだと、子どもながらに感じた。この時から他人との関わりは必要最低限にしようと思った。

 僕が次の学年に上がる時、福島先生は先生をやめることになった。やっぱりあの三人の事が関係していたのだろうか。


「って聞いてます?」

 気が付くと、佐藤が少し心配したように僕を見ていた。

「ごめん。少しぼーっとしちゃって」

 僕の返事が返ってくると佐藤は安心したように笑った。

「もう。しっかりしてくださいよ。で、活動日なんですけど、そういうわけで火曜・木曜・土曜でいいですか?」

「うん。それでいいよ」

 何がそういうわけなのかわからなかったが、僕は二つ返事で了承した。悩むことも無かった。きっと僕は「毎日ここに来い」と言われれば毎日でも来ただろう。そのぐらいやることが無かった。

「活動日のことは私から、田中先生に伝えておきますので、今日は終わりにしましょうか」

「うん。わかった」

 僕は椅子から立ち上がり、部室の扉の方に向かった。その時にふと気が付き、後ろに振り向いて言った。

「一応、聞いておくんだけど、写真部の部長って佐藤さんだよね?」

 この学校の部活の部長になると、月に一回の部長会と言う会議に出席しなければならない。僕はまだ二年生だが、他の部活の部長は三年生がほとんどだ。しかし佐藤も一年。条件はほとんど変わらない。

「そうですね。できればやっていただきたいんですけど……。ダメ、ですかね?」

 佐藤は少し悩んだように首を傾げながら聞いてくる。

 僕はカメラ初心者だし、きっと佐藤の方がいい写真を撮るだろう。それならば、いろいろな事を決められる権限がある部長を佐藤にやってもらった方がいいか。それとも、部長のめんどくさい仕事は僕がやって、佐藤を写真に集中させてあげるべきか。

 僕は悩んだ結果、

「わかった。僕がやるよ。でも写真とかカメラのことは分からないからそこは頼りにしないでね。雑務は大丈夫だと思うけど」

 と言って、部長を務めることにした。

「ありがとうございます」

 佐藤はそう言って頭を下げた。僕はそのお礼を受け取り、部室を出た。


「ただいま」

 僕は住宅街の角にある一軒家のドアを開けながら、大きな声で言う。

 時刻は午後7時。母も父も今は働きに出てしまっていて、家には誰もいない。僕の両親は二人ともブラックな企業に就職していて、帰ってくるのは大体9時半から11時ごろだ。

 家に誰もいないことがわかっていながら、大きな声で「ただいま」と言うのは不審者が入りづらくなるという理由もあるが、きっと癖だからだ。でもこの癖のせいで、たまにショックを受けることもある。中高生は思春期で親に反抗したくなると授業で学んだが、あれは嘘だと思う。いや普通はそうなのかもしれない。でも僕は早く帰ってきてほしいし、無理をしないでほしいし、たくさん話をしたいと思う。この気持ちは親しい人があまりいない弊害なのかもしれない。だから反抗期がある人はきっと贅沢な人なのだと思う。そして少し羨ましく思う。

 今日はいつもよりも少し大きなショックを抱えながら、自分の部屋に向かう。そして、部屋着に着替えた後、浴槽を掃除しに行く。この家の家事は僕が担当することになっている。両親が遅いため仕方ない。浴槽を掃除した後、お湯をためる。お湯がたまったら、すぐにお風呂に浸かる。お風呂には長めに浸かって、疲れをとってから夕食の準備に取り掛かるのが、僕の日常の生活リズムだ。しかし、今日は風呂から上がっても、なかなか疲れが取れなかった。久しぶりの学校で疲れてしまったようだ。まだ両親が帰ってくるまで時間があったので僕は本棚から何度も読んだマンガを取り出し、ベッドの上に横になりながら読む。そのマンガはラブコメで、主人公が二人のヒロインから好意を寄せられるという話だ。僕には縁のない世界だから、娯楽としてはとても面白かった。マンガの好きなところは心情の描写がとてもリアルなところだ。この十巻なんて、それは、とても、リアルな、もの、だっ、た。

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