第8話理事長の思惑

17時半、「なだ千」の駐車場に1台のタクシーが停まった。

中から、茶園先生と権田理事長が現れた。

「いやぁ〜、わりぃね。若いお二さん。うちは名鉄一本乗り遅れると、40分は電車来ねえから。水沢君と三嶋君だっけ?飲もうか」

と、理事長はか「なだ千」の扉を開いた。続いて、茶園先生。茶園先生は2人を見て、うんと頷いた。

2人の45歳は、新人の様にドキドキしていた。

こんな、料亭で飲んだのは3回位しかない。

しかも、目が飛び出るほど高い店。


個室の部屋に案内された。

女将が、権田理事長に挨拶にくる。権田理事長は、病院長でもある。

その下に、茶園医師が理事として存在している。

一介の施設職員とは、レベルが違うのだ。

「さ、さっ、2人とも好きなものをお食べなさい。今夜は帰しませんよ。奥さんには言ってあるの?今夜の事」

水沢と三嶋は、はい。と言った。


ゆずの皮に、ヒラメと納豆が混ざった料理が出てきた。

とりあえず、乾杯した。

日本酒だった。何の銘柄か分からないが、とても飲みやすくて、45歳2人はどんどん飲まされた。


「いんや〜、君たち強いね?で、三嶋君だっけ?今度、課長になるのは?」

と、理事長は日本酒をグラスに入れてがぶ飲みしていた。

こう言う人は、おちょこを使わない。水の様に飲むのだ。

「はい。来月から課長を努めさせていただきます」

「君は、うちの大学の後輩だ。僕は医学部だけど、君は?」

「私は、医学部保健学科です。何せ、馬鹿ですから」

「あの大学は、馬鹿は入れんよ。水沢君は◯◯大学卒だよね?」

「はい」

「未来が明るいじゃないか?サビ管も社会福祉士も保持してるね?」

「はい」

「まぁ、有馬って馬鹿がいたけど、アイツ酒弱くてね?だよね?茶園君」

「はい。そうです。彼は馬鹿でした」

「ま、これから仲良くしようや。2人とも足を崩しなさい。僕はかたっ苦しいのが嫌いでね。ワイン飲むかい?」

と、2人に提案して、日本酒とワインのちゃんぽんをこの理事長は勧めてきたのだが、2人はコクリと頷いた。


「君たちは、三銃士をしってるかい?君、三嶋君、作者は?」

と、ワインを女将に開けてもらいながら言った。

「アレクサンドリア・デュマです」

「そうだ。その、デュマがこのワインは脱帽してひざまずき飲むべきだ!と、言った、ピュリニー・モンラッセと言うワインだ。飲みたまえ」

2人はワインを口に運ぶ。

いつも、スーパーの安いワインしか飲まない2人は感動した。

それが、クワイのお吸い物に合う。


理事長はモンラッセを飲みながら、漬物を食べていた。最高峰の白ワインにお新香とは……。

格が違う。

茶園先生は、

「こっちも、美味しいよ!」

と、赤ワインを飲んでいた。

「これは、ナポレオンがこよなく愛した、シャンベルタンだ。この、飛騨牛のミディアムと合うよ」

と、言うので2人は湯呑みにシャンベルタンを注いでもらい、飲んだ。


うんめぇ〜。


と、2人は思ったが黙っていた。


「何だ、何だ、お二人さん。酔って無いじゃない。ワインはダメか?」

「い、いえ。余りにも美味しいので黙ってしまいました」

「水沢君。その答えは正しい。人間はホントに美味しいモノを口にする時は無口になるもんだ」

「ちょいと、権田ちゃん。2人にもっと無いの?」

と、茶園先生は酔って理事長をちゃん扱い。プライベートでは、茶園先生が2歳年上なので、そんな喋り方をする。理事長の権田も、受け入れている。


「ハブ酒はどうだ?」

「辞めてよ!権田ちゃん。この子ら、妻帯者で子供もいるんだよ!ピンクはお断り」

「そうか?失敬、失敬。さぁ飲みなさい」


全員、日本酒、ワインをちゃぽんにしたから、酔っ払っていた。

水沢はそこから、記憶に残ってない。

幸い、記憶の残る三嶋の話しじゃ、迷惑は掛けていなかったのだが。

理事長が、エラく三嶋を気に入ってくれて、水沢と茶園の計画は成功した。

こうやって、2人は理事会でも発言権を得ることとなった。

水沢は、トイレでリバースしていたらしい。介抱したのは、理事長だった。


でも、理事長は楽しかったと言っていた。

また、2人は給料が上がる事になった。

水沢は現場責任者となり、三嶋は課長になったからだ。

もう、怖いものは無い。後は現場の人間が着いてくるか?だ。

そこは、三嶋や水沢は新見に任せた。

それから、ボーナスが入ったら、水沢と三嶋は「なだ千」に行く事にした。

大人だ。

料亭くらいは、知らないと。

一度、わらび餅で日本酒を飲んだ。

失敗だったが、女将がやってきて、

「お客様、わらび餅と日本酒は合うのですか?」

と、聞いてきたので、三嶋は、

「失敗だった。合わない」

と、冷たく接した。

さぁ、今後どうなる?

ひかりごけの里は?

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