第10話 芋の収穫
それから数日かけて伐採を繰り返し、小屋に必要な木材を調達した。
「……この木材を売ればそれなりの金になるんじゃないか?」
「いや、全部使う。きちんとした小屋を作らないと絶対に上手くいかないと念押しされたからな」
「そうか。もったいないとは思うがお前が運んだ木材だ。好きにしろ」
カインからはやや白い目で見られた。
おかしなことをやっているように見えたのだろう。
実際そうなのだから何も言えない。
大工仕事をしている村人から建築に使う道具を借りる。
その代わりに畑仕事を請け負うことになった。
「兄さん、働きすぎだよ。倒れちゃうよ」
「大丈夫だ。ちゃんと飯は食ってるし、夜は寝てる。今は頑張りたいんだよ」
起きている間はずっと働き詰めだった。
それをリナにも心配されてしまう。
だが不思議と辛くなかった。
今までは毎日その日を生きていけるかどうか。それしか考えてこなかった人生だ。
しかし今は違う。
明確な目標が俺を突き動かした。
毎日畑を耕し、丸太を加工して木材を作る。
木材の加工が終わったら今度は小屋の建築だ。
その全てを一人でやり続けた。
ある程度の形にできた頃、気付けば四か月が過ぎて芋の収穫時期がやってきた。
豆と違い芋はちゃんとした保存をすれば長期に渡って保存できる。
信仰深い都市部ではどうにも嫌われているらしいが、うちのような小さな村ではなくてはならない食べ物だ。
不作の原因である土の病が治まるのがもっと遅ければ、この日を迎えられなかっただろう。
この日だけは小屋のことも忘れ、カインとリナと一緒にひたすら芋を収穫する。
「久しぶりに豆以外の食べ物が腹いっぱい食べられそうだな。いくら栄養があると言ってもさすがに食べ飽きた。贅沢な話だが」
「それだけ余裕ができたってことだろう。悪いことじゃない。食べ物を採るために危険を冒さなくてもいいってのはありがたいよ」
「まあ果物くらいは採りに行くんだけどな。りんごは芋の保存にも必要だし」
豆はあらゆる方法で食べた。
すり潰してペーストにしたり、焼いたり煮たり。
味は変えられないのでカインのように飽きたものが多いのだ。
芋が収穫できれば少しはマシになるだろう。
家畜がまた飼えればいいのだが……そのための資金がない。
村全体で金を集めても牛どころか鶏一匹買えないかもしれないな。
だからこそ、金になる丸太を売ろうとしない俺をカインはおかしな目で見たのだが。
貯蔵用の倉に芋を積んでいく。
「この倉で酢造りとやらをやればよかったんじゃないか?」
「いや、無理だ。風通しを良くするために穴をあけてあるから」
「ふーん……」
最後に森で採ってきたりんごをいくつか置いて布をかぶせた。
今回の収穫は豊作と言ってもいいだろう。
種芋を再び畑に植える。
小麦やサトウキビも本当は植えたいのだが、種籾すらないのが現状だ。
種芋を死守しただけでも本当にギリギリの状態だった。
収穫が終わった頃を見計らって、村長から集まるように言われる。
最近は特に問題もなく、久しぶりのことだ。
集まったのは畑のある家のみ。
食料を買い付けに商人が尋ねてきたという。
ハナンさんとは別の商人で、何でもいいからとにかく食料が欲しいのだとか。
「どうも都市部や首都の方はまだ食料危機が続いているらしい。あっちの畑は効率のいい小麦や大麦ばかりだったらしくてまともに収穫できなかったとか」
「それは……大変だな」
土の病は特に麦に対して猛威を振るった。
土壌自体は回復しても影響がしばらく残るらしい。
うちは豆や芋に切り替えたのもあって今は影響はないが、その切り替えがうまくいかなかったのだろう。
芋は嫌われてるしな……。
「そんなわけで金は弾むから売ってくれと。今回の収穫を見るに多少は売ってもいいと思っている。賛成の者は手を挙げてくれ」
反応は見事に分かれた。
余裕ができたのだから金に換えたい者。
飢えへの恐怖からそう簡単に食べ物を手放すことはできない者。
こればかりは話し合いでは解決が難しい。
なので売ってよい者だけ商人に売ることになった。
ちなみにカインは反対派で俺は賛成した。
金で道具が買えるからだ。
かなり時間を短縮できる。
「本気か? お前の所はリナちゃんだっているんだぞ!?」
「俺は本気だ。そもそも十分な食料は確保できてる」
「去年だって一時期はそうだっただろうが!」
三年連続不作が続いたと言っても、原因は実は年ごとに違う。
去年は土の病が広がるまでは実は豊作だったのだ。
それゆえにうちも近くの村も楽観視して食料を多く売りすぎてしまい、あの惨事につながった。
「全部を売るわけじゃない」
「……売った金はどうするつもりだ」
「半分は妹に。もう半分は道具を買う」
カインはしばらく俺を睨みつける。
多分全てを道具に費やすと言っていたら殴られただろう。
それほど鬼気迫る勢いだった。
「リナちゃんには苦労をさせるなよ」
「分かってる。これは俺の我儘だからな」
「あの丸太を売ってればそれだけでお前の家は裕福だっただろうに……」
「売ったら一度で終わりだ。それじゃあダメなんだ」
カインには理解してもらえそうにない。
それだけが少し寂しかった。
馬車で訪れた商人は豆と芋を山積みにし、キッチリ料金を払って帰っていった。
売った作物は都市だと一体どれほどの価格で売られるのだろうか。
俺たちが自分で売りにいけばもっと高く売れるのに。
鶏一匹いない村では無理な話だ。
俺の割り当て分を貰い、家に帰った。
いよいよ小屋を完成させねば。
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