第7話 村を再建するぞ

 なんだったんだ?

 嵐は収まり雨雲は奇麗さっぱりなくなったが、どうしてそうなったのかさっぱり分からなかった。


「頼みを聞き入れてくれたんだろうか?」

「ごほっ、いや……あれはどちらかというと驚いてた感じだったぞ」


 精霊様に吹き飛ばされた男がカインに肩を借りながら立ち上がる。

 背中を強く打ったようだが、幸い怪我はしていない。


「驚いた? 魔物も逃げ出すような存在が何に驚くっていうんだよ」

「それを飲んでから一気におかしくなったからな。それは何が入ってたんだ?」

「これはリナが酢の水割りを入れて持たせてくれたんだ。少し残っているな」


 中身を舐めると酸っぱい。

 どうやら濃く作ってしまったようだ。

 もしかしてこれが酸っぱくて薄めるために慌てて周囲の水をかき集めたのか?

 だとすると少し可愛く思えてしまう。

 また酢に助けられたということか。


「とりあえず嵐は止んだ。それでいいだろう。酷い目にあったが、終わり良ければ総てよし、だ。帰ろうじゃないか」

「釈然としないが……まあ人間が理解できる相手じゃないか」


 嵐が止んだおかげで来た道を戻るのは楽だった。

 村へと戻り、村長に報告する。


「そうか。よくやってくれた。雨が止んだから少し待てば畑に溜まった水も流れていくだろう。ようやく作物を植えられるな」

「ああ、やっとだ。森は危険だし、やっぱり農業で食い扶持は確保しないとな」

「うむ……」


 そこで解散となった。

 地面は雨でぬかるんでおり、更に続いたらどうなっていたことか。

 家に戻り妹に水筒を渡す。


「どうだった?」

「水の精霊様がびっくりしてたよ」

「えぇ?」


 何の話か分からず妹は混乱していた。

 精霊様が飲んでしまったことを話すと、何それと笑う。

 笑い話になってよかったと思う。

 目の前で見たから分かる。あれは大自然の脅威そのものだ。

 機嫌を損ねれば村の一つや二つ……いや、国だってどうなるか。


「水が引いたらうちの畑に行くから、今日はもう休むよ。薪はまだあるか?」

「うん。ちょっと雨で湿気っちゃったけど火にくべれば燃えると思う」

「よし、じゃあちょっと風呂に入ってくる」

「分かった」


 水を張った後に風呂用のかまどに薪を入れ、台所のまだ燃えている炭をそこに入れた。

 少し待つとパチパチという木の水分が弾ける音がしはじめ、ゆっくりと火が燃え移っていく。

 薪の量を調整して火の強さを加減し、丁度いい具合になったら風呂に入る。

 雨風で冷え切った身体が温まり、ほぐれていくようだ。

 疲れが癒えていくのが分かる。

 湯に浸かってふやけていると、突然風呂場のドアが開いた。


「兄さん、疲れたでしょう? 背中を流してあげるよ」

「いや、必要ない」

「そんなこと言わないで。私がやりたいんだから」


 薄着に着替えた妹が入ってくる。

 妹に裸を見られても別に恥ずかしくもないが、一緒に風呂に入るような年頃はとうに過ぎている。

 少し気恥ずかしさがあった。

 だが追い返そうとしてもなかなか出ていかない。

 このままだと風邪を引いてしまうかもしれないし、それなら気のすむようにしてやった方がいいか。


 リナに背中を流してもらう。

 良い心地だ。


「いつもありがとう。そしてお疲れ様。本当に頼りになる兄さんだよ」

「なんだ。おだてたってなにも出てこないぞ」

「別におねだりしてるわけじゃないから! 本心で言ってるの」

「そうか」


 心地よいリズムがだんだんと眠気を誘う。

 どうやら思っていたよりも体力を消費していたようだ。


「兄さん? 眠いの?」

「……ああ。そうかも」

「ゆっくり休んで」


 妹が湯で身体を流してくれる。

 その後なんとか体をタオルで拭き、着替えてベッドに突っ伏した。

 中の綿がだいぶ凹んでしまっているな。

 今は買い替える金もない。なんとかしないと……。

 そこまで考えた辺りで眠りに落ちた。


 次の日、体調は万全になり太陽が昇ると同時に目を覚ました。

 熱い風呂が効いたのか気力が漲ってくるようだ。


「はい、兄さん」

「おう」


 酢漬けのキャベツを妹と共に口に運ぶ。

 少しだがシカ肉も焼いて一緒に食べると満足感があった。


「今日はカインと畑を見に行く。水が引いたようならそのまま植え付けまでやるから遅くなると思う」

「なら家で編み物をしてるね。食料に余裕が出てきたら必要なものを買わないとだから家計の足しにしたいし」

「頼んだ。夏前には行商人も足を運ぶだろうから、そこで買い取ってもらおう」


 うちの畑はカインと共同で管理している。

 それぞれでやるよりも二人でやった方が効率がいいし、より広く畑を維持できる。

 その分収入も山分けになるので、ある意味カインとは運命共同体だ。

 だからこそ妹のリナを意識しているのだろう。

 あいつになら安心して預けられると思っている。


「水は抜けてるようだな。まだちょっと水気があるが、この天気なら昼には問題なくなるはずだ」

「まずは……豆だな。芋も植えるが、本当に森で採れてよかった。芋だけだと収穫がだいぶ先だからどうなることかと思ってたぞ」

「それでも一ヶ月はかかるがな。余裕があるわけじゃない」

「分かってる。収穫して増やしながら食べる分を確保していこう」


 畑の土を耕し、畝の形に整えていく。

 二人でやるとそう時間はかからなかった。

 それから等間隔に豆を植えて、それから残った場所に芋を植える。

 芋と豆は相性がよく、一緒に植えると発育が良くなる。

 代わりにネギ類は一緒には植えられない。


 どうか育ってくれと祈りながら植えていった。

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