異世界での第一歩 翔也
クソ、体が動かねえ。足は潰れて周りは一面炎。これが、死か。
「ああ、チクショウ。彼女、欲しかったなぁ」
あいつらと遊ぶのは楽しいけど俺以外全員がリア充ってことで、ちょっとした疎外感があった。それを忘れさせてくれるほどの楽しさがあったから気にしてはいない。周りから見たら俺だって充実した一生を過ごしたと思えるだろう。それでも、
「ああ、チクショウ」
手元の土を握り締める。その程度、物に当たった程度で消える悔しさではなかった。次の瞬間、翔也の真上の天井が崩れる。家の瓦礫が自分に降り注ぐ。それが翔也に直撃する直前、翔也はこの世界から消滅した。
『”土の適正”獲得しました』
「あ? 俺は……?」
気が付いたら草原に倒れていた。何か声が聞こえた気がするが、そんな思考をかき消す激痛が足に走る。
「あ”あ”あ”ぁぁぁ!!」
なんとか体を捻り、足を確認するとそこには無残に潰れた右足が。左足からも血は流れているが右足ほどはひどくないように見える。他の怪我は顔と右腕の火傷くらいか。
「医者、医者……!!」
ここがどこかはさっぱりわからないが、とりあえず近くの町、とにかく人がいる所に行って足の治療をしてもらわないと。
近くで見つけた木の棒を杖代わりに、痛む右足を引きずってゆっくりと歩き始める。
どれだけ歩いたかわからない。おそらくそこまで長い間歩いたわけではないだろうが、俺にはもう数時間歩いたように感じていた。
何やら、戦闘が見えた。何を言っているのかわからないだろうが俺もわからない。なんだかよく分からない馬鹿でかい獣とそれを囲むように人間が5、6人。
帽子をかぶって杖を持った、いかにも魔法使いという風貌の女が杖から炎を出し、獣を炙る。その魔法使いをターゲットにした獣が突進するが盾を持った男が魔法使いを庇った。そこに剣を持った若い男が斬りかかる。獣の足が一本丸々斬りおとされた。そこに斧やら魔法やらが一斉に撃ち込まれて、獣は息絶えた。
「ナイスーーー!!」
「いい援護だったよ」
「お疲れ!!」
パーティの人たちが集まって互いに労いの言葉を掛け合っている。俺は戦闘に見入ってしまって話しかけるのを忘れていたが、彼らがどこかへ行ってしまう前に話しかけなくてはならないと思い、足を引きづって慌てて近寄る。
「あ、あのーー」
「っ!? 誰だ!!」
声をかけただけなのに6人のパーティ全員が俺に武器を向け、警戒する。手を挙げて敵意無しと表現しようと思うが今は足が痛くて片手しか上げられない。だがそれでも辛うじて意志は伝わったようだ。
おそらくリーダーの男が剣をしまい、話に応じてくれる。魔法使い二人は依然として俺に杖を向けたままだが。
「君は? こんな所で何をやっているんだ? ここは危険区域に指定されていることは知っているだろう」
「いや、知らないんだ。気が付いたらこの草原に倒れていて」
「気が付いたら? 転移魔法か?」
魔法? さっきの戦いの様子から薄々察していたがここはファンタジー的な世界なのか? とりあえずこの質問に関してはさっぱりわからない。
「……わからないんだ。とりあえず、近くの町まで案内してくれないか。見ての通り、体がボロボロで」
リーダーの男はパーティメンバーに視線でどうするかと語り掛ける。魔法使いの男が、
「いいんじゃないですか? 噓を言っているようには見えません」
「こんな所に一人でいるだけで怪しいだろ。少なくとも鑑定はしてからにしよう」
「わかった。ライラ」
「ん、わかった。”鑑定”」
何か、違和感を感じた。この若干の不快感が鑑定なのか?
「でた。魔力2、スキルなし、称号”土の適正”だけ」
異世界転移によるチートボーナスなんてものは無かったらしい。スキルがない上に魔力はまさかの2。平均がどんなものかは知らないが2が低いことは間違いないだろう。そんな都合のいいことはないのが当然か。
”土の適正”ってのはさっき聞こえた綺麗な声の言っていたやつか。
「魔力値2……そんな状態でここに来るとは思えない。ならやっぱり転移による犯罪に巻き込まれた線が濃厚か。治癒しても問題ないと思う。皆は?」
「異議なし」
「よし、ライラ」
「わかった。神が施す癒しの光”ヒール”」
痛みが消えていく。火傷の痕も。
「これが、魔法……?」
「そうだよ。見るのは初めて?」
「ああ。ありがとう、助かったよ」
腕をグルグルとまわし、体の調子を確認する。見事に元通りだ。
「町までだったね。僕たちが送っていくよ」
「いいんですか? ここ、危険地域なんでしょう?」
「安心していい。僕はオーリック、A級冒険者だ」
こうして翔也はA級冒険者に保護され、帝国の小都市に無事に到着することが出来た。
「それで君はこれからどうするんだい?」
「わからない。ひとまず何か仕事を探して生計を立てないとな」
せっかくファンタジー世界に来たんだから冒険者にでもなってみるのもいいかもしれない。これでも一応剣道部の主将だ。剣の実力は悪くないはずだ。
「なら冒険者ギルドに行って登録をしないとだね。しばらくは僕らもこの町に滞在する。冒険者ギルドにはちょくちょく顔を出すから困ったことがあったら相談しにおいで」
「何から何まで、ありがとうございます」
その足で翔也は冒険者ギルドに向かい、D級冒険者の冒険者証を受け取った。Ⅾ級は誰でもなれる、冒険者の入り口だ。
こうして、翔也は冒険者として異世界での第一歩を踏み出した。
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