第5話
夕飯時になり、彼の店に行く。
店はそれなりに繁盛している。
「あ、君は夕方に出会ったあの!」
店主さんに話しかけられる。どうやら顔を覚えられていたらしい。
「ユウです。こちらはソフィアさん」
「さあさあこちらへどうぞ。お安くしときますよ。二人のおかげで貴重なお肉が手に入ったんですから」
じゃあせっかくのご厚意に甘えて、
「バイコーンの料理をお願いします」
出された料理はローストビーフ。肉本来の味が分かるものの。
「う~ん、やっぱり少し固いですね」
口に入れた肉をもう何十回も噛みながらソフィアが言う。
確かにと返しつつ、僕も何回も同じ肉を噛んでいる。強引に水で流し込んでもう一枚。わざわざこれを頼んだことを少し後悔し始めていた。周りを見ると何人かが同じ料理を頼んでいる。みんな興味本位で頼んだのだろうか。それにしてもローストビーフだからこそ噛み切りずらいのだ。もっとほかの調理法はなかったのか。そういえば王宮で食べた時もこんな料理だった。もしかしたらこの食感がバイコーンの良さなのか? うーん良く分からない。僕が子供舌だからなのか?
と悩みながら皿に盛られた肉を二人で頑張って消化していく。
すると、
「いらっしゃいませ。四人ですか?」
店に入ってきた四人。一人はつばの広いとんがり帽子、背丈ほどもある長い魔法の杖を携えている、女性だ。一人も女性だが、こちらは対照的にノースリーブにショートパンツと鍛え上げられた肢体を見せつけるように露出している。もう一人は男性で十字架のような意匠が刻まれた法衣を着ている。そしてもう一人は、もう一人は真紅のマントを翻し、宝石で彩られた片手剣を腰に携えている。
あれは、あれは、勇者パーティだ。
お父様とお母様を殺した奴らだ。僕の大好きな人たちを殺した奴らだ。
瞬間、憎悪が僕の体を突き抜ける。
持っていた箸を握りしめる。この箸で奴の目玉をくり貫いてやりたい。奴の顔面を踏みにじってやりたい。奴の体をバラバラにして魔獣の餌にしてやりたい。奴を生きたまま内臓を引きずり出してやりたい。
「ユウさん? 大丈夫ですか」
彼女の声ではっと我に返る。
「大丈夫だよ。大丈夫、大丈夫だから、大丈夫」
何度も何度も繰り返し、噴き出してきた憎悪を心の奥底に沈めていく。まるでそんな感情などなかったかのように平静を保とうとする。
その後の食事は全く味がしなかった。
「よう、お二人さん。今日も相変わらずお麗しゅう、ソフィアさん。ユウキは、相変わらず辛気臭い顔だな」
辛気臭いと揶揄われたので必死に笑顔を作る。
「まったく気味の悪い笑顔だな、まあそれはいつものことか。今日の仕事は、まあ大した仕事はないな、何しろ勇者様ご一行が危険な任務をすべて請け負ってくれたからなぁ」
勇者……その一言が僕の笑顔を消し去った。
「勇者ですか」
「そうだ。彼らはよく働いてくれるよ。魔物、魔獣退治に今は奔走している」
沈黙が走る。そうかあの勇者たちが。湧き上がってくる感情を抑えて、いったん頭を冷静にする。僕は再び微笑を取り戻す。
「ほかに残っている仕事は?」
火のついた煙草をくゆらせつつ、ぺらぺらと依頼書をめくりながら言う。
「まあ簡単な薬草採取とかならまあそこそこある。これ、全部受けるかい? 量は多いがすぐ終わるだろう」
とりあえず受けられるものはすべて受ける。
本当にすぐに終わってしまい、正午ちょっとすぎにピーヴの煙草臭い店に戻ってくることができた。
「はいこれ報酬」
安いな。まあ何とか生きていけるぐらいは貰えた。
帰ろうとした瞬間。
「あっ……。ちょっと忘れ物しちゃった。ソフィアさん。先に行ってて」
彼女に声をかける。彼女は少し首を傾げつつも頷き、前を歩きだした。
ごめんなさい。ごめんなさい。ソフィアさん。とひたすら心の中で謝罪しながらくるりと振り返り、煙草臭い店へと歩き出す。
「ピーヴさん。依頼を出したい」
ピーヴはニヤリと笑った。
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