第3話
寝転んで目を瞑れば過去を否応なく思い出してしまう。
僕がまだ魔王城にいた時だ。
あの時は平和だった。お父様もお母様も優しかったし、召使いのゴブリンたちと遊ぶのも楽しかった。ドラゴンと一緒に周りの町をめぐるのもワクワクした。
でもそんな日常がたった一日で、たった四人の手によって破壊された。
その時僕は何もできなかった。僕はいろんな人に守られて生かされてしまった。彼らの目的は魔王とその一族だった。だからお父様とお母様と僕を差し出せばみんなは生きていたはずなのに。
結局、僕は多数の犠牲を払いながらのうのうと生きている。
慙愧の念に苛まれ、なかなか眠れない。
彼女を起こさないようにそっとソファから立って、キッチンへ向かう。
とりあえず軽く酒でも飲んで気を紛らわそうと、思い、きれいなコップに注いで一気にあおる。
少しだけ体が熱くなる。しかしまだ眠れそうにない。もう一杯だけとお酒に手を伸ばすと、
「ユウさん」
後ろからソフィアが声をかけてきた。
「ごめん。起こしちゃった?」
「いえ、私も寝付けなかったので……。私も一杯いいですか?」
彼女に余っていたコップを渡し、お酒を注ぐ。
「んっ、このお酒ちょっと強いですね」
ことんとコップを置いて彼女が僕を見つめてくる。瞳がしっとりと濡れている。
「眠れそうですか?」
「わからない」
寝れたら良いのだが、これぐらいの量では無理だろう。もっと飲みたいけど……。
「もっと注いでもらえますか?」
彼女がコップを差し出す。僕はそれになみなみと注いだ。
「んっ、んっ」
彼女は一気に飲み干すと、もっと飲ませてとまたコップを僕に向ける。僕はまた注いであげた。それを繰り返すこと十数回。彼女はかなり酔っぱらってしまった。
彼女は真っ赤な顔をして僕の顔を見つめる。
「ユウさん、ユウさん……」
うわごとのように僕の名前を呼んで、胸に縋り付いてきた。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。私が悪かったんです。だから、だからユウさんは悪くないんです……。だから、あなたは自分を責めないで……」
彼女が涙ぐみながら独り言のように僕に語り掛ける。その贖罪を聞くだけで僕の心が抉られていく。
違うんだ。あれは僕の責任だから。彼女が責任を感じているという事実そのものが僕の心を締め付けていく。
ソフィアを安心させるために少しの笑顔を作り出す。
「大丈夫。僕は自分を責めてないよ」
「嘘をつかないでください!」
語気を強めて顔を上げてくる。
「そんな嘘を言って、私が納得すると思っているんですか! 本当に、ホントに、責任を感じていないなら……」
ソフィアがネグリジェの肩紐に指をかける。
「私のこと、また抱いてくれますか?」
「っ……! それはダメだ!」
彼女の肩をつかみ、僕から引き離す。そうすると、悲しそうな表情をして。
「ほら、やっぱり、自分を責めているじゃないですか」
僕は何も言わない。
「ユウさん。ユウさん。……うぅん」
そのまま僕の胸で眠ってしまった。彼女を抱きかかえてベッドに寝かせる。
「ユウさん、ユウさん。一緒に寝て、くれませんか?」
「ダメだ」
「うぅ、やっぱり……」
そのまま涙を流し、寝てしまった。
僕は少しベッドに腰かけ、自戒する。
「ごめん。ソフィアさん。僕はダメなんだ。あんなことをした自分は君を抱く資格はもう無いんだ」
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