第2話
私がこのビルヂングを訪れたのは3ヶ月前。
二年前に妻に先立たれ、再婚相手を探していた時だった。
数々の女性と交際してみたが、なかなか良い女性に巡り合えなかった。
いや――正しい言い方をすると、良い女性は沢山いた。ただ、あっちの相性が合わなかったのだ。
あっちとは説明するまでもなく、セックスの相性だ。
生前の妻ともセックスの相性については度々話し合った。
私たちは、正直、相性が良くなかった。それでも、互いに愛し合っていたのは明確で、なんとかできないものかと二人で奮闘した。目隠しや緊縛、拘束、青姦、コスプレ、鼻フック、性別逆転劇、アナル浣腸、汚物系(食糞はどんなに頑張っても無理だったが)など、いろいろと趣をこらして頑張ってみた。けれど、いざはめ込むとなると、まるで間違ったパズルピースを無理やり埋め込むみたいに合わなかった。
妻は、Aダルトビデオの女優並みに感じている演技をしながら、穴で満足させられない分、口で奉仕してくれた。彼女の努力は嬉しかったが、申し訳ない気持ちで性欲が落ち込んだ。
彼女が頑張れば頑張るほど、愛情の情の部分だけが優ってイヤラシイ気分になれないのである。故に、私も演技せざるを得なくなった。
妻がイったフリをして行為を終わらせた後、私は風呂場へ走って「シャワー浴びてくるわ」と言いながら自身で処理をする。穴がぴったり合わないため、セックスドールとする自慰の方が私には気持ちがよく、週に一回は出張と称して隠し倉庫に保管してあるセックスドールとモーテルに宿泊し、一人で発散していた。しかし、自慰の後には強烈な罪悪感が襲った。
それには理由があった。自慰の時は、愛する妻を想ってではなく、会社の部下の女の子や、いつも通っている病院の女医さん、知り合いの保母さん、その他もろもろを妄想していたからだ。妻のことを考えると、大事に思い過ぎてどうしてもエロい気分でなくなるのだ。
妻は、そんな私の一人モーテル性行為事情も気づいていたのだと思う。
「また出張ですか?」
薄く微笑みながら呟く彼女の表情には影があった。
私は罪悪感に苛まれ、こんなことしてちゃいけない。それに、自慰ばっかりしていると、人間とのセックスでイキにくくなる、という記事をどこかで読んだ。オナ禁に勤しめば相性の悪い妻ともイケるはずだ。
セックスの相性が悪くとも、私と妻が愛し合っているのは事実なのだから。
「私たち、あっちも相性がよければ完璧な夫婦だったのにね」
妻が息を引き取る際に、掠れた声で言った。
咳き込んで、血反吐しながら妻は続けた。
「あなたには、死ぬまでに、完璧に合う人を見つけて欲しいの。あなたの……に合う……を……どうか見つけ……て————」
これが妻の遺言だった。
わたしの凸にあう凹を見つけほしい。
ひとしきり泣き叫んだあと、私は自分の下半身に合う女性を求めて彷徨った。
しかし、体も性格も100%一致する相手を見つけるなど、砂漠で落としたコンタクトレンズを見つけるようなものだ。好みの女性を探してヤりまくり、完璧な相性を求めて徘徊する。そんな膣ハンターな日々を過ごした。
しかし、二十代でもなければそんな体力勝負クエストを毎日こなしてられない。
そんなとき、たまたま目に入ったのが『ファックツアー』という旅の企画だった。
電話機の設置されていない電話ボックスに貼付けられた希少なピンクチラシ。
その中に貼ってあった電話番号と『夢のファックツアーへようこそ』という文字。そしてキャッチフレーズだろうか”ハメルトン愛乗りツアー”と殴り書きしてあった。
私はなぜだかこのチラシのキャッチフレーズににドキドキした。
久しぶりに心拍数が上がり、遠足前の小学生のように胸が踊った。
「ハメルトンファックツアー」
なんて心踊るネーミングなのだ。一体どんなツアーなのか。
私は逸る気持ちで番号を押していた。
この怪しげで刺激的な企画ツアーは問い合わせが殺到していたのか、何度もかけたがなかなか繋がらなかった。
きっとこれは釣りだ。新手の詐欺かもしれない。相手が用事で電話に出れない間にやめた方が良さそうだ。そう思って電話を切ろうとしたら繋がった。女性が出た。
「あっ……えっ……あ、あの。チ、チラシを見たんですが」
「はい。どのチラシでしょうか?」
透きとおった優しい女性の声に、私は返答に躊躇った。
「ファッ……ファック!」
そこで止めて黙ってしまった。
ここが英語圏でなくて良かったなと、なぜかそんなことを冷静に考えていた。
ザ・ファックツアー! 二十三 @ichijiku_kancho
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