LIGHTNING
「武蔵、そっちを頼む!」俺は敵の斧を抑えながら叫んだ。
「任せろ。」武蔵はそう言って、稲妻を走らせた。
武蔵の能力は"稲妻"だった。雷を体に纏い、高速で移動することが出来た。正直、有り得ないほど強かった。ラファ王の"瞬間移動"に匹敵するのでは無いだろうか。俺は武蔵に一度も勝てたことが無かった。
俺は能力を持っていなかった。だが、喧嘩じゃ武蔵以外にはほぼ負けたことが無かった。何十人ともやり合ってきたが、大体勝っていた。
「この反逆者が!」敵は剣を後ろから取りだし、また振りかざした。
ラファ王が死んで、国は大混乱に陥った。そこで、今なら1人となった王を殺せるのではと立ち上がった者は少なく無かった。その者達によってこの日、王を殺そうと決められた。
剣を避け、右手に力を込める。思い切り腕を振り、相手の頭に直撃させる。
数秒後、脳震盪で相手は倒れた。その瞬間俺は相手の首をひたすら潰した。
「鶴来、こっちは片付けたぞ。」武蔵はこちらへ向かってくる。
「おつかれ、こっちもだ。」俺は顔を上げる。
「敵はもう大分死んだな。」武蔵は周りを見渡す。
「味方達が強すぎるな。」正直これなら王にも勝てるのではないかと思う。
自分の目を疑った。
強い味方達の死体がそこら中に転がっていた。体を燃やしながら戦っている人間を見て、全員こいつにやられたのかと恐怖する。先に行った味方達の内、最後の1人が殺された。
強敵であろう彼の能力は恐らく、"火炎"だった。武蔵と同じく、自らの体に能力を纏って戦うタイプだろう。だが明らかに彼は尋常じゃない燃え方をしている。
「倒せるか?」俺は不安になって聞く。
「2人なら勝てる。」同時に、大きく風が吹いた気がした。
武蔵は雷を纏った。拳を構え、稲妻となって消えた。
最初に認識出来たのは、轟く爆発音だった。次に認識出来たのは、武蔵が一撃を加えていることだった。それに続き、自分も走り出す。
正直、俺の攻撃は効かなかった。何度殴っても、拳が黒焦げになるだけだった。
武蔵は何度か攻撃を入れていた。途轍も無い戦闘をする2人を見て、別の世界の人間だと思った。
迫り来る炎の腕を必死に避ける。避けたと思ったのも束の間、自分の足首を横から思い切り蹴られてしまった。
視界が宙を舞う。これは、銃を使った方がいいかもしれない。だが今使ったら、王をどうやって殺す?
相手の燃ゆる手は、俺の心臓を突き刺した。
一瞬の出来事だった。こんなの勝てるもんか。俺にも能力があれば、と悔しくなった。それと同時に、それは負け惜しみに過ぎないことに気づいた。最後にこんな格好のつかない事を思ってしまうなんてと、情けなくなった。
武蔵の叫ぶ声が聞こえたが、次第に何も聞こえなくなった。
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