GELATO ESCARGOT
キュンです
TWO KINGS ARE
その王国には、2人の王がいた。2人は友であった。2人は豪然たる人間であった。2人に敵う者などいなかった。
「私の友を殺してくれ。」そう懇願して来たのは、ラファ王だった。
「君は最も親しき友を殺せるか?」王は静かに問いかけた。
余りにも美しく晴れ渡った夜に、涙が出そうになる。ひたすらに高く作られた展望台で街を見下ろしていた。毎夜の日常であったが、今夜は果てしなく強い王がいた。
「殺せないですよ。」最も親しき友と言われて思いつくのは、武蔵であった。武蔵にはそもそもケンカじゃ絶対敵わないが、勝てるとしても自分の手で殺せる気はしなかった。
「そうか。」ただ聞いただけ、という雰囲気だった。
「昔、私はここで沢田と約束したんだ。良い国を作ろう、と。」王は周りを見渡して言った。
「だが沢田は堕落してしまった。」
「妻と娘が殺されてからおかしくなってしまった。私にも息子や孫がいるから気持ちは分かる。だが、誰のことも信じず国民を処刑し続けるのは違うだろ?」王は大きく息を吐く。
「君が殺してくれないか?」あまりの言葉の重さに、足が竦む。
断っても良かった。むしろ断った方が良かっただろう。でもなぜか、言ってしまった。
「はい。」自分がやるしかないと思ってしまった。後には引かない。
「本当か?」王はこちらを大きな目で見つめた。
「はい、やりますよ。出来るか分からないし、怖いですけど。」気が変になっているようだったが、決心して言った。
「心から、感謝する。」王は声を震わせた。
「もし引き受けてくれたら、渡そうと思っていた。」そう言って王は何かを取りだした。
銃だった。
「私の能力は知ってるよな?」銃の先端部を持ち、こちらへ差し出してくる。
「"瞬間移動"ですよね。」受け取りながらそう言う。明白な質問だった。2人の能力は世界でもトップクラスに強く、多くの逸話があった。
「正解だ。この能力をどうにか他の人が使えるように出来ないかと、試行錯誤したんだ。」そう言って転落防止用に作られた柵へ瞬く間に移動した。目の前で伝説と言われた能力を披露され、感動が押し寄せる。
「70年程生きて、私はやっと気づいた。」大きく風が吹く。
「自らの血肉を使うことで、自分の能力を武器に付与出来る。」勿論自分にとっても、初めて知る情報だった。
「その銃には1発だけ弾がこめられている。1発だけだ。たんまりと私の血と肉が使われている。」王は続けて言った。
「つまりだ。その銃には、私の能力が付与されている。たった一度きりだが、銃を撃てば弾が瞬間移動する。どんな無茶な撃ち方をしても、撃ちたいところに必ず命中する。」重たく、ゆっくりと言葉を吐き出した。
「別に使わなくてもいいが、いざとなったらそれに頼ってみてくれ。」王はこちらを向いて優しく言う。
「...ありがとうございます。」圧倒され、それしか言葉が出なかった。今自分の手に、とてつもなく価値のある物があるのだと、慄いてしまう。
「君、名前はなんと言う?」また大きく、大きく風が吹いた。
「鶴来です。」何か自分の中に溢れる熱を感じながら、力一杯声を出した。
「良い名前だ!」王はそう叫んで、真っ暗な大空へと身を委ねた。
ラファ王は落ちていった。
王国には、国民と1人の王だけになった。
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