決断
家に着くとお父様が目を涙でいっぱいにしながら出迎えてくれた。
「エル……よかった……生きて帰ってきてくれて本当に良かった……」
ポロポロと涙を流すお父様を見て改めて自分の愚かさを痛感した。お父様の書斎に入るとお説教が始まった。でも言葉の端々に私のことを大切に思っているというのが伝わってきて私はルキを抱きしめながらひたすら謝った。お説教が終わるとお父様は見たこともないような鬼の形相でどこかへ魔道具を持って行ってしまった。
「エル、入るよ。」
お父様の声とともに入ってきたのはお父様、ロバートのお父様、そして国王陛下だった……
「陛下!」
私は急いで頭を下げた
「よい、今回は非公式じゃ」
なぜ陛下がいるの?魔導伝達で伝達が速いのは知っていたけど……まさか転移?いや、まさかね
「今回我が来たのはほかでもない、クロエとかいう女子生徒についてだ。噂では彼女になびかない男子はいないと聞いて居るが……もしそれが真実なら重大な問題だ。彼女に好意を寄せているのは皆高位貴族ばかりだ。そしてほかの女子生徒や貴族たちはもはや崇拝の域だと聞いておる。」
確かに……普通争いが起きてもおかしくないし、"皆"というのが引っかかるわ……今まではこれもストーリーの強制力だと思っていたけどそうじゃないとしたら?……
私は起こりうる可能性を想像して背筋が凍った
「調査せねばなりませぬな……」
お父様が真剣な表情で言った
「あの女、変な魔法使うよ!フワフワって空気中に漂うんだけどそれを吸った人はメロメロになっちゃうの!きっとあの子と一緒なんじゃないかな?」
ひょっこりと現れたルキがポロっと重大なことを溢す。
「なんじゃと?」
「ルキ、あの子って誰?」
私の問いかけに興味を持ってくれてうれしかったのかルキは嬉しそうに続きを話す。
「あの子っていうのはね!僕と同じ魔獣で幻覚を見せるのが得意なんだ!それでね!相手の理想の姿に一番近いその人を見せることができるんだよ!でも僕には効かないけどね!だって僕のほうが上だもん!」
「なるほど……その魔獣の可能性が高いとするならば捕獲は困難……とみるべきか」
ため息をつくお父様にルキが声をかける
「僕、捕まえられるよ!それにたぶんあの子もエルのほうが好き!エルの魔力はものすごく濃縮されてるから!ま、僕のおかげだけどね!」
魔獣は人やほかの魔獣を食らうことにより減った体内の魔力を補っている。前世でいう精霊がそれに近い存在だろう。私も毎日ルキに魔力を分け与えているのだ。魔力は濃縮することができる。だがものすごく操作が難しく私も習得するのに苦労した。
「では決まりじゃな、エルアテシアの魔獣であるルキがそのクロエと一緒にいる魔獣を捕まえる。その後の始末は我に任せろ。捕まえた魔獣に関しては……
エルアテシアのほうが詳しいじゃろ、頼んだ。」
「謹んでお請けいたします」
話がまとまるとお父様は陛下と話があるからと私を先に部屋へ返した。
「陛下ってかっこいいね!それにすごい魔力だったよ!」
興奮気味に話すルキに私は笑みがこぼれた。しばらく元の姿に戻ったルキとじゃれているとお父様がノックをして部屋に入ってきた。
「よく聞きなさいエル、今から話すことは他言無用だ。」
「わかりました。」
真剣な表情のお父様に私はごくりと唾をのむ……
「近々王家主催の夜会がある。おそらクロエ嬢はそこで行動するだろう。そこを逆手にとって一気に制圧する予定だ。エルにはパートナーに扮した護衛をつける。私の娘だ、そんなにやわじゃないことはわかっているがこれは私のためと思ってつけてくれ。それと動きやすいドレスを作らせるからそれを着なさい。ロバート君からもしパートナーとして誘われてもことが片付くまでは承諾しないように。何があるかわからないからね。」
顔に心配という文字を浮かべながらお父様は私の頭をなで頬にキスをすると部屋を出て行ってしまった。
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