大切な人
巨大な竜が第一王子めがけて猛然と腕を振り下ろされた。間一髪でかわすも腕には傷が刻まれていた。
「殿下!!危ない!!エル、お前は急いで先生たちを呼べ!俺はここで竜を殿下たちと食い止める!」
私は急いで先生たちを呼びに行った。
「エルアテシア!あなたも一緒に逃げなさい!」
「先生!私も戦えます!」
「公爵家の人間に怪我をさせられないわ!」
「責任はすべて私が負います!」
私は先生を説得して何とか一緒に戻ることができた。
一方訓練場では……
「クソッ!魔術師だけじゃ分が悪い。このままだと勝率はないぞ!」
「クロエ!早く逃げるんだ!」
「クロエ嬢!危ない!!」
「あなたたちを置いていくことなんてできないわ!」
勝ち目がないと確信し逃げる準備を始めるルシュディル、クロエを逃がそうとする第一王子、クロエを守るロバート。そしてなぜかとどまるクロエ。竜の暴走で、訓練場は壊滅状態に。
「あなたたち!あとは先生に任せて逃げなさい!!」
「チっ、来るのが速いのよ」
ボソッと何かをつぶやくクロエ、しかし次の瞬間……
ギャオォォォォォォ!!!!
「グハッッ……」
第一王子の右腕に飛んできた破片が刺さる。パァッと一瞬顔が明るくなり……
「回復は私に任せて!」
そう言って回復魔術を唱え始めるクロエだが……パシュッっという音とともに魔法陣が壊れる。
「なんで!?なんで壊れるの?!」
「何やってんだ!!早く逃げるぞ!ってエル!?なぜ逃げてないんだ!早く逃げろ!!」
そう言って走ってくるルシュ兄さま……状況は最悪だ。
「おい!ロバートもこっちへ来い!!」
見るとロバートと呼ばれた男子生徒が竜のターゲットになっていた。竜はロバートを追いかけまわし火を噴いていた。
「ヤダ!バッドエンドのスチルじゃない!!」
クロエが放ったその言葉にズキンと頭が痛くなる
バッドエンド?スチル?ロバート?どこかで聞いたことがある……どこだ……この記憶は……頭の片隅にあるのに思い出せない。
「ロバート!危ない!!」
竜がロバートの結界を破壊した次の瞬間、私はロバートのもとへ身体強化をして全力で向かっていた。とっさにロバートをかばった瞬間鋭い痛みが背中に走った。なぜ、私はロバートを庇ったのか?ロバートは…………私にとって大切な存在だから……いや、何かが違う。頭が混乱している。
「エル……どうして……なんで僕なんか……」
ロバートの声が震えており目から涙があふれている。
「ロバートのばかぁぁああああ!!!!」
影から出てきたルキが突然光りだした。次の瞬間私の背中に刻まれた深い傷が跡形もなく消えていた。そしてルキがめちゃめちゃ大きくなっていた……
「ロバート!!どれだけエルを悲しませれば気が済むの!?エルはね!ロバートのためならなんだってできる。そしてロバートの幸せをいちばんにかんがえてるんだよ!?なのに変なオーラを纏った女とイチャイチャするしさ!?エルの誘いを断るし!そのせいでエルはロバートとの記憶を封印したんだよ!?自分がロバートの幸せの邪魔にならないようにって!!こんな優しくてまっすぐなエルを傷つける婚約者なんか大っ嫌いだ!!!!」
ルキはおも言い切りロバートの腹にパンチを入れた。ロバートは反動で壁に吹っ飛んだ。そうだ……私……ロバートとの記憶を……
「お前もだ!!お前の敵はあの女だろ!!!なんでエルに攻撃するんだよぉぉぉ!!!!」
すると突然空から大きな鉄の塊が落ちてきて竜は落ちてきた鉄の塊に押しつぶされてしまった……ルキに……
「え……ルキ?……」
私が何か言おうとするまえにルキは私を背中に乗せると空高く舞い上がった。
「エルを悲しませる奴なんてみんな大っ嫌いだ!!!!」
そう言い終わるとルキは私を乗せたままルシュヴァルテ領方面へ向かって走り出した。
「ルキ!?どこ行くの!?」
「おうち帰る!」
笑顔で私に微笑むルキに私は何も言い返せなかった。
「あのねエル、エルにとってロバートがす~ごく大切なのは僕にも伝わってるよ。でもね、僕にとってはエルがロバートのことが大切なのと同じくらい大切なの。だからエルには無理をしてほしくないし、もっと僕を頼ってほしいの。」
背中に私を乗せたままそう話すルキに私は今までなんて身勝手でわがままだったんだと思い知らされた。私を大切だと言ってくれる人がいるのにすべてを投げ出そう、自分さえよければなんて……
私は謝りながら泣いた。その後も沢山の話をルキした。今までのこと、前世のこと。ルキと沢山話すことで気持ちの整理が付いた私はルシュヴァルテ領に向かった。
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